FILE23

 

 

 

「・・・?」

目を開けると、天井。

どこかで見たことのあるような染み。

 

そこは、ボロボロの宿舎ではなかった。

 

 

 

「・・・俺の・・・部屋?」

ゆっくりと起き上がると頭が少しくらくらした。

が、越前の体は健康そのもののようだった。

 

 

「全部・・・・・・ゆめ・・・?」

枕元の目覚まし時計は6時をさしていて。

越前は飛び起きた。

 

 

 

「おう早いな青少年!結構結構!ってお前、履物くらい履いていけ!」

呼び止める南次郎の声を無視して越前はそのまま家を飛び出した。

 

 

(全部、夢?)

なら、全部夢なら、

あの出来事が、全部嘘なら、

 

 

「先輩・・・!」

走る越前の目からは涙が溢れた

 

 

 

 

 

バンッ

 

 

 

「ハァ、ハァ・・・」

校門をくぐり、部室のドアを開けると、そこは以前と変わらない光景が広がっていた。

 

 

 

 

だが、

 

「・・・ない・・・」

 

越前は頭を思い切り振りもう一度部室を見渡したが、依然としてその様子は変わらなかった。

 

 

もう一度、越前は呟いた。

 

「・・・・・・ない」

 

 

 

 

越前の記憶ではそこにあったはずの手塚国光、不二周助、河村隆、乾貞治、大石秀一郎、菊丸英二、桃城武、海堂薫のロッカーは跡形もなく消えていて。

壁に貼ってあったはずの桃城が書いた落書きや、不二がいつの間にか飾っていたサボテン、大石の字で書かれた「全国制覇!」の貼り紙もその痕跡を残していなかった。

 

 

 

「せ・・・んぱい・・・」

越前の頬を一筋涙がつたった

 

 

 

「くそ・・・・・・くそ!くそ!!」

(もう、いないんだ。ほんとに、いないんだ、)

拳で床を叩くたび涙が落ちた

 

 

「なんで!なんで、なんで・・・」

(夢だって、そう信じたのに、どうして、)

 

 

 

膝をついた越前のポケットから、紙が一枚落ちた。

 

「これ・・・てがみ・・・」

 

 

拾い上げると、それはくしゃくしゃに丸まった手塚の手紙だった。

ポケットに入れてこれだけは持って帰ってきたらしい

 

 

「・・・」

越前は力なく手紙を広げると、それを読み始めた。

 

 

 

 

 

越前へ。

今日俺達は出撃することになった。

 

「・・・っ・・・」

その一文を読んだだけで、あの時の悲しみが蘇ってきて、越前の目からは更に涙が溢れた。

越前は手紙を汚さないよう手の甲で涙を拭うと、続きを読み始めた。

 

 

 

お前に黙っていたことを、本当に申し訳なく思う。

実を言うと、これは最初から決めていたことだ。

自己満足なのかもしれない。

だが、俺は、あいつらにしてやれる償いをこれしか知らない。

 

一番辛いのはお前、一番苦しいのもお前、それはよくわかっている。

だが、お前だけは、どうしても犠牲にしたくはなかった。

連れてはいけなかった。

 

 

いつか、高架下で言った言葉を覚えているか?

お前には、青学の柱になってほしい。

俺達の果たせなかった夢を果たしてほしい。

そして、ただ幸せに生きてほしい。

それが、俺達みんなの望みだ。

 

受け止めてほしい。俺達の死を。

お前にだけは、俺達を忘れないでいてほしい。

俺達の意思を、受け継いでほしい。

勝手なことを言って本当に、すまない。

 

 

 

 

 

ぽたり

 

 

 

 

読み終わった手紙に、越前の涙が数的零れ落ちた。

 

 

「謝ってばっかっすね・・・部長・・・」

越前はもう感情を抑えることができなかった。

 

 

「部長、ほんと勝手すぎ・・・っ、俺、は・・・みんなで・・・テニスがし・・・たかった、のに・・・!!」

越前の脳裏に浮かぶのは、みんなで楽しくテニスをしていたあの頃で。

バカみたいにふざけあっていればよかったあの頃で。

確かに存在した、今は手を伸ばすことすら叶わない幸せな景色。

 

 

 

「むり・・・ですよ・・・、い、み、ない・・・じゃん、せんぱいがいなかったら・・・・・・!なんのイミもない・・・っっっ!」

部室にこだます自分ひとりの泣き声が余計に越前の心を締め付けた。

 

 

「っく・・・ひっ・・・・・・んで・・・っ・・・なんで死んじゃったんですか・・・!なんでっっっ・・・!」

 

 

 

越前は手紙を握り締めたまま、ひざをついた。

その時、もう一枚、違う紙が越前の足元に落ちた。

 

 

「・・・?」

 

越前はうなだれた頭をあげその手紙を読むと、ゆっくり立ち上がりドアを開けて外に出た。

 

 

「不二先輩・・・」

越前の持った紙には、不二周助の字で短い文章が書かれていた。

 

 

 

越前。

僕が言いたいことは手塚と同じだから手短に書くよ。

 

キミの気持ちは、僕にだってよく分かる。

受け入れられないと思う。

ごめんね。でも、キミには生きてほしいんだ。

 

もしキミがどうしても耐えられなくて、涙が出そうになったら。

空を、見上げてほしい。

 

 

 

越前は、ゆっくり空を見上げた。

 

 

「・・・あの日と、同じだ・・・」

 

深く、吸い込まれそうな、どこまでも青い空。

 

 

 

僕らはそこにいるから。ちゃんといるから。

それを覚えていて。

キミが僕たちを覚えていてくれる限り、僕らはずっとキミを見守ってる。傍にいる。約束するよ。

 

越前。キミと会えてよかった。

ありがとう。

 

 

 

 

 

越前は、2枚の手紙を丁寧にたたんでポケットにしまうと、再び空を見上げた。

 

 

 

 

 

「先輩。俺、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

涙を拭った越前の目には、青い空が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青い青い空の日に

物語ははじまり

青い青い空の日に

物語は終わりを告げました

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

 

 

 

 









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送