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「手塚・・・落ち着いた?」

「・・・ああ。すまない」

そう言いながらも手塚の瞳には涙が光っていた。

不二が強がる手塚を見てフッと笑みをもらしたのも束の間、真剣な表情で操縦に戻った。

 

 

 

 

「・・・いろいろ、あったね」

「ああ」

 

 

 

「タカさん、桃、海堂、大石、英二、乾・・・みんな、死んじゃった」

「・・・」

 

「全部、覚えてる。最初から最後まで・・・頭から、離れないんだ」

 

 

「お前等は走ってこい!!」

「神風特攻隊?」

「今日、俺たちは飛行機の操縦訓練を受けた。突撃するための・・・ね。」

 

 

「僕ね、手塚・・・」

「・・・・・・」

「本当なら、今頃全国大会でテニスしてるのに、どうして僕たちが、って・・・仕方ないことかもしれないけどずっと考えてた」

 

 

「・・・タカさん」

「駄目だ!タカさん!止めるんだ!」

「俺・・・あの日、河村先輩が飛行機の操縦教わってるとこ・・・偶然見ちゃって」

 

 

「ありもしないことばっかり考えてた、僕が一番受け入れられてなかったんだ。みんなは現実に向き合ってたのに・・・」

 

 


「桃と、海堂を出撃させないでください」

「俺、別に悔いはないッス。全国行けねぇのは確かに残念ッスけど・・・・・・でも、こんな仲間に会えたんだし。だから、そんな悩まなくてもいいッスよ。」

「ビビってんじゃねえだろうな桃城」

 

 

「バカだよね、僕?だって、みんなが出撃した後もまだ『これは夢なんじゃないか』って、みんなは戻ってくるんじゃないかって心のどこかで思ってた・・・」

「不二・・・」

 

 

「俺、出撃命令が出たよ。」

「大石ぃーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」

 

 

「信じられなくて。みんな死んでなんかいなくて、どこかで笑いあってるんじゃないか、って」

 

 

「乾は・・・死なない。アイツは、死んだりしない。」

『お前達と夢を追いかけた時間、とても楽しかった。』

 

 

 

「でも、やっと分かったんだ。これは【現実】なんだって」

 

 

「明後日・・・だよね?帰れるんだよね?」

「俺には、部長としての責任がある」

 

 

「過去だけど、僕らのいるべき世界じゃないけど、これは現実で、僕らが今感じてることも全部本当なんだって・・・今になって、やっと気付いたんだ・・・」

 

 

 

「だからね、僕は

ゴォォォッ!

 

その時、突如手塚の機体から炎が噴出した。

「手塚!?」

 

「不二、すまな・・・」

手塚の最後の声は風と飛行機の轟音でかき消された

最後に不二が見た手塚の顔は、右半分が焼け爛れていて、思わず不二の目からは反射的な涙が溢れ出た。

 

 

 

「手塚!っ手塚ああっ!!・・・くっ・・・」

悲しむ間もなく不二は手塚の飛行機の爆風にあおられないように機体を操縦するので必死だった。

 

 

 

ゴォォォ!

そんなとき、追い討ちをかけるかのようにもう一撃の砲撃が不二の機体に直撃した。

来るとは分かっていたけれど、避けきれず不二の機体は火を噴き始めた。

 

 

「あ・・・つい・・・」

燃え盛る炎のあまりの暑さに、ついに不二はハンドルから手を放した。

と同時に機体は急降下を始めた

 

 

「あ・・・れは・・・」

落ちていく中、不二の目は一機の機体の中の人物に吸い寄せられた。

その人物は不二の目を真っ直ぐに見据えると、一筋の涙を流した。

 

 

 

「・・・・・・忍足侑士。」

はっきりその名を口にすると、不二の意識は暗転した。

 

 

 

******

 

 

 

「堪忍やで。お二人さん」

急降下していく2つの機体を見つめながら、忍足は呟いた。

 

 

 

(まさか、終戦日に二人も青学が出撃するとはな・・・)

操縦をする忍足の手は、震えていた。

 

 

 

「不二・・・俺を、恨んでくれよ」

忍足の脳裏からは最後に見た不二の瞳が焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

 

「そろそろ・・・行こか」

忍足は、機体の方向をほぼ垂直にし、ハンドルを強く握った。

 

 

 

 

 

目を閉じると蘇るのは氷帝のみんなの笑顔、そして青学のみんなの笑顔で。

関東大会の初戦のことを思い出すと、忍足の目からは涙が溢れた。

あの頃は、まさか自分が彼等の命を奪うことになるなんて思ってもいなかった。

 

 

 

 

「未来を奪ってしまって・・・ほんまに、堪忍。許してくれとは言わん」

忍足はもう聞こえないであろう不二と手塚に向かって言った

 

 

 

「せやけど、これが俺にとって一番の償いやと思うから」

ぎゅっ、とハンドルを強く握ると忍足は自分から湧き出る妙な汗を感じた。

 

(これが、青学のやつらが経験した恐怖・・・)

 

 

 

心を落ち着かせもう一度目を閉じると、忍足ははっきりと言った。

 

「一緒に、行かせてもらうで」

 

 

 

 

 

 

 

 

1945年8月15日、戦争終結の間際、アメリカ軍の船に向かい、急降下をした飛行機が一機。

それはアメリカ軍の飛行機だったが、操縦者は日本人だったという。

 

 

 

 

 

自分で経験して初めて

自分の罪の重さを知る

償えたなんて思ってもいないけれど

 

 

 

 









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