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「ねえ、何か光ってる・・・」

 

8月15日。

終戦の朝、窓の外の異変に気づいたのは芥川だった。

 

 

「あ?・・・・・・何だアレ」

「森の方からだよな・・・」

宍戸と向日の呟きを遮るかのように跡部が突然立ち上がり言った。

 

 

「おいテメェら!荷物をまとめろ、行くぞ」

「おい跡部!行くってどこにだよ?」

 

食いかかった宍戸を跡部は軽く一瞥したが、質問には答えず自分の荷物をまとめ始めた。

 

 

 

「樺地、ジローを背負え」

「ウス。」

 

跡部の考えていることが分かっているのか分かっていないのか、樺地はテキパキと荷物をまとめ芥川を背負い小屋を出た。

 

 

 

「ちょ、跡部、どこ行くんだよ!」

続いて小屋を出ようとした跡部を止めたのは宍戸だった。

「そうやで、何の説明もなしに突然・・・」

宍戸の言葉を受け継ぐ忍足。

 

 

「いいから黙ってついてこい」

跡部は面倒くさそうに言い放つと小屋を出て行った。

 

 

 

*****

 

 

 

「何コレ、穴・・・?」

マヌケともとれる声を出したのは向日。

 

「せやけど、この場所にこんな穴あったか・・・?」

忍足の疑問には誰も答えなかった。

 

 

 

一同がやってきたのは先ほど芥川が目撃した光の場所だった。

そこには人一人が通れるくらいの洞窟の入口のような穴が空いていた。

 

 

 

「おい跡部、説明しろよ」

いらだった様子の宍戸に、跡部は説明を始めた。

 

 

 

「今日は8月15日。終戦の日だ。そんな日に突然出現したこの穴・・・。俺様の推測ではおそらくこの穴は、現世に繋がっている。」

 

「マジかよ!?」

宍戸の表情が一瞬パッと輝いた。

しかしそれも束の間、俯いた。

 

 

「どうしたんだよ宍戸?」

向日が声をかけると宍戸はギュッとこぶしを握って言った。

 

 

 

「俺・・・・・・長太郎をおいていけねえ」

空気が一瞬にして重くなったが、宍戸は更に続けた。

 

 

「長太郎・・・は、この時代で死んだ。俺は、アイツを置いてここを逃げ出すなんてこと、

「宍戸」

 

遮ったのは、跡部だった。

跡部は宍戸の目を鋭い目つきで見据えると言った。

 

 

「テメェは馬鹿か」

「なっ・・・!?」

 

 

 

「鳳が何を望んでるかくらい、考えたら分からないのか?お前が鳳の立場なら、お前はお前に何を願う?」

「!・・・・・・・・・・・・」

宍戸ははっとした表情を見せ、俯いた。

 

 

跡部はその様子を見てフッと笑うと宍戸の肩に手を置いて言った。

 

「ちゃんと向こうで、埋葬してやれ」

「・・・・・・ああ。」

 

 

跡部は軽く頷くと、樺地の背の上の芥川に言った。

 

「慈郎、お前も一緒に行け」

「・・・おっけー。」

芥川の顔は血が抜けて青白かったが、跡部の言葉に精一杯の笑顔を作った。

 

 

 

 

 

「・・・・・・じゃあ、お先に」

宍戸は芥川を背負うと穴の中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・じゃあ、俺達も、行く?」

宍戸と芥川が去った後、向日がそう言った時だった。

 

 

 

ふいに忍足が、口を開いた。

「俺、ここに残るわ」

 

「・・・・・・何・・・言ってんだよ!?」

向日の表情が一瞬にして凍りつく。

 

 

 

「堪忍岳人。せやけど、俺やり残したことがあるねん。向こうへは帰られへん」

「な・・・んでだよ?!帰って一緒にダブルスするって言っただろ!?」

向日は忍足に掴みかかったが忍足は頭を下げて『すまん、堪忍』と繰り返し言うばかりだった。

 

 

「侑士、悪い冗談やめてくれよ!何で残るなんて言うんだよ、なあ、ここに居ても侑士意味ないだろ?」

「・・・・・・」

「ここに居ても死ぬだけじゃんか・・・意味ないだろ・・・・・・俺達、みんなで帰るためにあんなことやったんじゃないのかよ・・・」

向日の大きな瞳からは次々と涙が零れ落ちた。

 

「帰ろうよ・・・ゆーし・・・」

そして向日は忍足の服を掴んで泣き崩れた。

 

 

「岳人・・・、俺は、俺には

「樺地。向日を連れて先に行け」

忍足が口を開きかけたとき、跡部の鋭い声が飛んだ。

 

 

「ウ・・・ウス」

「・・・っ、やめろっ俺に触んな!」

樺地は向日を掴みにかかったが向日のあまりの剣幕に一瞬怯んだ。

 

 

向日は樺地の手を振り払うと忍足にすがりつくように言った

「侑士、も一回ダブルスして、一緒に全国優勝しようぜ?約束しただろ?なあ・・・

「樺地。早くしろ!」

「ウス!」

 

岳人を呆然と見ていた樺地も、跡部の厳しい声に、今度ばかりは本気で岳人を抑えにかかった。

暴れる岳人を担ぐと、樺地は穴の方へずんずんと歩いていった。

 

 

「放せっ放せよ!ゆーし!ふざけんな!帰ってこねぇと承知しねぇぞ!ゆー・・・

叫び続けていた岳人の声も、樺地が穴の中に入ると聞こえなくなった――

 

 

 

 

 

 

「・・・行ったか。堪忍な跡部」

「あん?こうなることくらい分かってんだよ」

跡部は横目で忍足を見ると、得意げな笑みを浮かべると言った。

 

 

「泣いても良かったんだぜ?」

「あほ、岳人の前で泣けるか・・・・・・あー・・・最後の方危なかったわ」

言いながら、忍足は眼鏡を外して涙を拭った。

 

 

「相変わらずの過保護っぷりだな」

フッと跡部が笑うと忍足も弱い笑みを返した。

 

 

 

「・・・岳人のこと、よろしゅうな」

「・・・・・・ああ。」

 

 

しばらくの沈黙が訪れた。

太陽がそろそろ昇ってくるころ、跡部は言った。

 

「じゃあ、俺も行くぜ?」

「・・・おおきに、跡部」

忍足は軽く跡部に頭を下げた。

 

 

「・・・・・・後悔すんじゃねーぞ」

 

忍足は頭を上げると、跡部と目を合わせた。

 

 

が、返事はせずにニッと笑って言った。

 

「全国優勝、託したで」

 

 

 

 

「あーん?誰に言ってんだよ」

跡部は得意の不敵な笑みを浮かべるとゆっくりと穴の中へと姿を消した。

 

 

「・・・・・・ほな、行こか」

最後までその姿を見送ると、一人残った忍足は、ぽつりと呟き歩き出した――――

 

 

 

 

 

 

計画通りにはいかないものだ

涙ってこんなに簡単に

流れるものだったろうか?

 

 

 

 

 









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