FILE16

 

 

 

目が覚めると、鳳の視界にはコンクリートの天井が入り込んだ。

 

 

「・・・・・・?ここは……」

鳳は激しい頭痛に耐えながらも上体を起こした。

 

 

 

目の前には、鳳と同じように頭を抑えながら起き上がる仲間たち。

 

鳳はいつものメンバーに少しほっとし、部屋を見渡した。

 

 

 

「プレハブ小屋みてぇだな。ま、跡部の別荘じゃないことだけは確かだろ」

 

 

 

 

 

鳳の気持ちを代弁するかのように、鳳とは違う声が言った。

 

 

鳳が声の方向を見上げるとそこには自分の先輩でありダブルスパートナーである宍戸亮が立っていた。

 

 

 

「宍戸さん・・・・・・なんで俺達こんなとこに・・・」

 

「さあな。・・・・・・俺だって跡部ん家の別荘まで行ってるとこまでしか記憶ねぇし」

 

 

 

 

彼らはレギュラーだけの合宿をするはずだった。

 

 

毎年恒例の全国へ向けたレギュラー合宿は跡部の別荘で行われることになった。

 

そしていつものように跡部が送迎バスを用意することになっていた。

 

 

 

ところが、バスが故障しレギュラー達は電車を乗り継ぎ徒歩で合宿所まで行く羽目になってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿所まであと数キロ、なれない山道に疲れもピークに達する頃だった。

 

 

 

「あ゛?おい、今なんか言ったか?」

 

先頭を不機嫌な顔をして歩いていた跡部が急に立ち止まった。

 

 

 

 

「や、俺は何も言ってへんで」

「俺も」

 

 

後ろを歩いていた忍足・向日が即座に応えると、跡部は腑に落ちない表情をしながらも歩を進めた。

 

 

 

 

「・・・そうか。まあいい、行くぞ」

 

 

ところが、前に踏み出そうとした足は、動かなかった。

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

 

 

「どないしたん?跡部」

 

「早く行けよ」

 

 

 

 

「……チッ、わかってるよ。ただ・・・」

 

 

 

そのとき、突如として前方から眩しい閃光が跡部たちを包み込み、全員の意識は暗転した――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「Hello,boys!(こんにちは、少年たち)」

 

 

突如、プレハブ小屋の扉が大きく開いて、数人の男が姿を現した。

 

 

 

 

「・・・・・・?外人かよ?!」

 

思わず向日が声をあげた。

 

 

 

それもそのはず、入ってきた人物は全員色素の薄い髪と瞳をしたどう見ても日本人には見えない風貌だったからだ。

 

 

 

小屋の中は、突然の外国人の登場に俄かに騒がしくなった。

 

 

パンパン

 

すると、外国人の集団の中でリーダーらしき人物が突如手を叩いた。

 

 

 

「Please keep quiet.(静かにしてください)」

 

 

 

このくらいの英語は全員分かるのか、部屋はしんと静まり返った。

 

 

 

 

静かになった部屋を見るとリーダーらしき人物は満足げな笑みを浮かべて言った。

 

 

「Please participate in the war in you.The content is very easy.Please attack a Japanese army.OK?」

 

 

 

「!」

 

 

 

 

それを聞いた瞬間、跡部の表情が一瞬強張った。

 

忍足と鳳の表情も蒼ざめた。

 

 

 

樺地だけは、いつものように無表情で動かなかった。

 

 

 

 

「・・・・・・あ?・・・わかんね・・・・・・なんて言ったんだ、跡部?」

 

 

宍戸と向日はきょとんとした顔で跡部の方を見た。

 

どうやらこの二人は長く早口な英語にはついていけなかったようだった。

 

 

 

 

 

二人に尋ねられた跡部は、黙り込んだ。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「俺そんなのやらないから」

 

 

突如声がした。

 

 

見ると、芥川がつかつかと扉に向かって歩いていくところだった。

 

 

芥川はリーダーの男の英語をおそらく理解したのだろう。

 

いつもの眠そうな態度は何処へやら、毅然とした態度で扉に手をかけた。

 

 

 

「Hey,boy…(おい、少年・・・)」

「Stop(待て)」

 

 

近くにいた外人たちが芥川を引き止めようとしたのをリーダーの男は手で制した。

 

 

 

そして、黙ってポケットに手をいれ、何かを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ジロー!!戻って来い!」

 

 

 

 

 

 

跡部がそう叫ぶのと、ほぼ同時だった。

 

否、若干跡部の声の方が早かった。

 

 

 

 

 

バンッ

 

 

 

 

 

 

耳をつんざくような音に全員が耳を塞いだ。

 

 

リーダーの男が、取り出した拳銃から発砲したのだった。

 

 

 

 

 

そしてその弾は、綺麗な曲線を描いて、芥川の足を貫通した。

 

 

 

芥川があと少し振り返るのが遅ければ。

跡部が叫ぶのがあと少し遅ければ。

 

 

 

おそらく銃弾は芥川の心臓を貫き、芥川は命を落としていたことだろう。

 

 

 

 

「っ!!!!」

 

 

芥川は鋭い痛みに倒れこんだ。

 

それを見て慌てて樺地と鳳が駆け寄った。

 

 

 

芥川の足からは、とめどなく血が流れ出ていた。

 

苦しむ芥川の様子を、向日はぽかん、と別の世界のことのように見つめていた。

 

 

 

 

「ジロー!?・・・・・・・・・くっそ・・・・・・テメェらっ・・・!」

 

「やめとき宍戸。」

 

 

向日と同じように驚いていたが、我に返って怒りがこみ上げてきたらしくリーダーの男に掴みかかろうとした宍戸を忍足が制した。

 

 

 

 

 

「っでもあいつ等っ・・・・・・」

「殺されたいんか?」

 

忍足の真剣な瞳を見ると、宍戸は力を緩めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、お前等。此処でおとなしく待っとけ。俺は向こうで話をつけてくる。」

 

 

 

突如小屋に跡部の声が響いた。

 

それは有無を言わせぬ、いつもの「俺様」な彼の口調であった。

 

 

 

レギュラーを一瞥すると、跡部はリーダーの男の傍に行き流暢な英語でなにやら話しかけた。

 

 

 

そしてリーダーの男と二人で小屋の外に出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

小屋に残されたのは、跡部以外の氷帝レギュラー、そして数人の軍服を着た外国人。

 

辺りにはしばらくの沈黙が流れた。

 

 

 

 

 

「・・・さ、ジロー先輩。手当てします。」

 

俺包帯持ってますから、と鳳は芥川を小屋の端へと誘導していく。

 

 

 

 

「なぁ、一体、どういうことだよ・・・?」

向日の困惑した声が、小屋に響いた。

 

 

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数十分後―――否、数分後だったのかもしれない―――突然ドアが開け放たれ、跡部と先ほどのリーダーの男が姿を現した。

 

跡部はリーダーの男と軽く視線を交わすと、リーダーの男は外国人たちを呼び集めた。

 

 

 

そして、何も言わずに小屋を去っていった。

 

 

 

 

 

 

「テメェら、そこへ座れ」

 

 

跡部の口から出た言葉に反射的に芥川以外の部員全員が体を動かした。

 

跡部は、その様子を見ると再び口を開いた。

 

 

 

 

 

「今から俺様が言うことに口出しはするな、いいな」

 

 

跡部はそう言って全員の顔を一瞥した。

 

 

 

「先ほどあいつ等が言っていたことだが……要約すると【俺達に戦争をしろ】ということらしい」

 

 

 

跡部はそこで一旦言葉を止めたが、誰も何も口出ししようとはしなかった。

 

 

いつも跡部の話に口を挟む宍戸や向日も、黙っていた。

先ほどの間に忍足や鳳から外国人が喋った英語の大まかな意味を聞いていたからだった。

 

 

 

 

跡部は更に話を続けた。

 

 

 

「ここは、1945年のアメリカだ。もうすぐ第二次世界大戦が終わる。あいつらは、俺達に日本軍の『神風特攻隊』という軍隊を攻撃してほしいと言っている。」

「神風特攻隊?何だよそれ。」

 

思わず向日が口を挟んだので、跡部はちらりと向日に視線をやった。

 

 

 

「日本軍の突撃部隊だ。成人していない青年を中心に、特攻機一つでアメリカの船にめがけて突撃してくる。俺達はそれを上から飛行機で打ち落とすらしい。」

 

 

 

「?!特攻機一つで?自殺行為じゃねえかよ・・・・・・」

 

「信じられない・・・」

 

 

宍戸や鳳も次々と口を挟んだ。

 

 

 

 

「俺は聞いたことあるで。昔の日本は『お国のため』『名誉のため』やったら何でもしたってな・・・」

 

「俺、嫌だぜ。人を殺すのなんて・・・・・・だってよ、向こうだって何も悪いことはしてねぇんだし・・・俺らと同じくらいの歳のやつらだろ?何より、同じ日本人じゃん・・・」

 

 

宍戸と鳳、忍足と向日を順番に見つめて、跡部はフッと笑った。

 

 

 

 

 

「いいか。成功率はほぼ100%だ。俺達は上から攻撃するだけなんだからな。情を捨てれば生きて帰れる。だが・・・・・・俺達が断れば、そのときは、」

 

跡部はそこで一度咳払いをした。

 

 

 

 

辺りはまた沈黙に包まれ、跡部はおもむろに口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのときは・・・・・・米軍は、口封じのために俺達を容赦なく射殺するそうだ」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・どうするんだよ、あーん?」

 

 

 

 

跡部の言葉に、全員が同じ表情を浮かべた。

 

 

 

『人は殺したくない』と。

 

 

 

だが、

 

 

 

 

『もう一度テニスをしたい』と。

 

 

 

 

 

 

 

跡部は一人一人の顔を見渡すと、重々しく言った。

 

 

「・・・決まりだな」

 

 

 

 

跡部の言葉に、全員は弱弱しく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

罪はみんなで背負うもの

このとき俺たちは

どんなに重い罪だとしても

どれだけ間違った選択だとしても

どんなにツライ道でも

みんなと一緒なら

歩んでいける気がしたんだ

 

 

 









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