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大石は、考えていた。

勝手に溢れ出てくる涙、それは河村の死への悲しみそしてこれから起こるであろう桃城と海堂の出撃からくるものだった。

 

 

桃城と海堂の発言から夜が明け、出撃の日程が発表された。

四日後だった。

 

そしてその残された四日さえも、あっという間に過ぎていく。

もう、出撃の朝を迎えようとしている。

河村の死からまだ一週間と経っていないというのに。

 

隣りの布団を見ると、二人分のスペースがぽつんと寂しく空いている。

眠れなかった大石は二人が出て行く瞬間も気づいていたが、声は掛けなかった。

否、掛けると別れが悲しくなるから。

他のメンバーもそう思ったのか、二人を横目で静かに見送った。

 

 

二人は、あの決断をした日から熱心に訓練を受けた。

そして、いつもと変わらぬ態度で最後の日々を楽しく過ごそうと試みていた。

大石はその姿を見て人知れず涙を流した。

 

大石は乾が何も行動を起こさないことに驚いていた。

あの日以来乾は大石の目にはまるで「抜け殻」のように見えた。

データノートも部屋に置きっぱなし、開いていたとしても上の空で何を書きとめているのかわからない。

桃城と海堂が生き延びる方法、最後の望みは乾だったのに・・・・・・

大石はそう思いながらも自分ではどうすることもできないというもどかしさを感じていた。

 

あと幾日か生き延びれば戦争は終結するというのに。

その幾日を生き延びれない自分、後輩の死を黙って見送る自分。

なんて無力なんだ、大石は拳を握り締めた。

 

「起床!」

いつもより気合の入ったように聞こえる起床の掛け声と共に、大石は布団から出た。

大石に続き、次々と手塚や菊丸、不二・・・・・・といずれも目の下に隈を作った青学メンバーが布団から出た。

 

いよいよ、あの瞬間が訪れる。

大石は唇を固く結んだ。

 

掃除もそこそこに、集合の声が掛けられる。

あの時と同じだ、と大石は思った。

もっとも、何度やっても慣れるものではない・・・・・・むしろ理由も解らずに走ったあの時の方がマシだったのかもしれない。

大石は、青年たちにまみれて足を進めながら思った。

 

 

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「ビビってんじゃねえだろうな桃城」

海堂はガラス越しに桃城に話しかけた。

「ばーか、お前こそビビんじゃねーぞ」

桃城はふざけた笑顔でそう言ったが、その笑顔が引きつっていたことは海堂でなくても気づいただろう。

 

愛機に乗り込んで数分。

気候のためか、それとも緊張のためか二人からは大量の汗が出ている。

 

海堂は何度目か知れない手の汗を拭った。

そのとき、青年たちの足音が聞こえた。

 

 

桃城と海堂が森の方向へ視線をやると、大男が青年たちを引き連れてやってくるのが見えた。

後ろの方から、手塚や不二、菊丸たちがうな垂れて歩いてくるのが見えた。

 

前はあそこに居たのに・・・・・・今はここか。

そう思うと桃城は何だか胸が痛くなった。

 

海堂は海堂で河村はこんな感じだったんだろうか、と考えていた。

ガラス越しに見るメンバーたちは、別世界の住人のような気がした。

その中で、海堂の目に留まったのは、乾だった。

 

暗い、何を考えているのかわからない空虚な瞳。

いや、何を考えているのかわからないという意味ではいつもと同じだが・・・・・・いつもとは明らかに違う。

”無”の瞳であった。

 

「乾・・・先輩」

海堂が発した声が聞こえたのか、否、聞こえるはずはないが何かしらの力が伝わったのだろう、乾が若干伏せていた顔を上げた。

 

そして、その瞬間

「出撃ーー!敬礼!」

 

出発の合図が送られ、海堂は前を向いてエンジンを入れた。

隣りで桃城も同じ作業をしている。

 

そして、仲間たちの敬礼に見送られ、桃城と海堂を乗せた機体は少しずつ飛び上がった。

 

 

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桃城は自分が鳥になって飛んでいるような感覚に陥っていた。

周りを見渡しても、どこもかしこも青い空ばかり。

ただ、それ以外のもので見当たるものといえば、ライバルの機体だけだろう。

 

「マムシ〜鳥になったみたいだと思わねーか?」

桃城は機体から少し身を乗り出し、この場に似合わない明るく大きな声で海堂に問いかけた。

 

「ウルセェ・・・・・・テメエ自分の立場わかってんのか」

海堂は桃城の方を向かず、しかし桃城にちゃんと聞こえるよう風の音に負けない大きな声で答えた。

 

 

桃城と海堂を乗せた機体は、着実に目的地へと進んでいた。

 

 

狙うは、アメリカ軍の船。

エンジン部分に追突できれば最高・・・・・・と大男が言っていたのを桃城は思い出した。

 

 

 

「・・・・・・・・・狙ってやるよ」

 

桃城は呟いた。

海堂が隣りで、なんか言ったか?と睨んだが桃城の視界には入らなかった。

 

 

 

桃城は思った。

 

俺の1つしかねぇ命だ。

もし使うなら、有効に使わなくちゃいけねーな、いけねーよ

犬死にだけは、したくなかった。

 

 

「なっマムシ!」

「あ゛?聞こえねーんだよごちゃごちゃと」

 

目的地は、もうすぐ。

 

 

 

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「なあ、あの船じゃねえか」

先ほどのやりとりから十数分といったところだろうか、アメリカ軍のものらしき船が二人の視界にちらついた。

 

 

「ああ・・・・・・」

海堂はごくりと唾を呑んだ。

 

死期の瞬間が迫ってきているからか、先ほどまでの表情とは打って変わって緊迫した表情だった。

 

 

 

「行くぜ、ヘバんじゃねーぞマムシ!」

二人は桃城の言葉を合図に、船に向かって一直線に下降した。

 

 

 

数秒後、少し後ろで轟音が聞こえた気がして桃城は振り返った。

そのとき、桃城の額に生暖かい液体が降りかかった。

 

 

「マムシ・・・・・・・・・?」

桃城が辺りを見渡すと、すぐそこを飛んでいたはずの海堂はいなかった。

 

 

そして、桃城の少し下を、一直線に下降・・・・・・いや、墜落していく飛行機が一台。

そこに乗っている人物の顔を見たとき桃城は息を呑んだ。

 

 

その機体には、人形のように目を見開いた海堂薫が、顔中に血をこびりつけて乗っていた。

 

海堂を乗せた飛行機は桃城が何か行動を起こすまでもなく、一瞬で下へと墜落していった。

落ちていく瞬間、桃城は虚ろな海堂の目と目が合った気がした。

 

あまりの出来事に、声が出なかったが目があったのが引き金となるかのように、桃城の喉からは乾いた声が出た。

 

 

 

「海堂ーーーーーっ!!!!!!!」

 

桃城が見えなくなった海堂に向かって涙まじりに叫んだ瞬間、風の音に負けない轟音が聞こえた。

 

 

 

「・・・・・・・・・?・・・!!!っ」

同時に、右肩に物凄い痛みが走る。

 

見ると今までにないほどの出血。

撃たれた・・・・・・桃城はそう思った。

 

 

桃城は、弾が飛んできた方向に目を向けた。

 

「・・・・・・っ!!!!」

瞬間、桃城は目を見開いた。

 

 

桃城が吐いた言葉は、二度目の轟音に掻き消された。

 

轟音がやんだとき、もう桃城に息はなかった。

操縦者の命を奪われた飛行機は、ただただ下降していった。

 

 

 

そして、桃城を乗せた機体は海堂を乗せた機体のすぐ傍に、墜落した。

二人の焼け爛れた遺体は、まるで「信じられない」とでも言いたいかのように目をこれでもかと見開いていた。

 

 

 

 

 

 

命は1つしかないんだから

もう少し大事にしたかった

なんて 今更言っても

もう後の祭り

 

 

 









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