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翌日、一同はすさまじい音によって起こされた。

越前もあまり眠れてはいなかったのだが、知らぬ間に寝てしまっていたようだった。

 

 

 

「起床ーー!!」

大きな声を青年のうちの一人が出すと、他の青年たちはぞくぞくと起き出し、活動の仕度を始めた。

 

 

越前が何気なく外を眺めると、まだ日は昇りきっていなかった。

それからすぐに朝食を採るのかと思えば、青年たちは列をなして外へと出て行った。

布団から出たくない、という体に鞭打ち、越前も寝巻きから軍服へ着替えて出て行くと、青年たちが並んでいた場所は井戸の前であった。

数人の青年たちが、バケツや雑巾を持ってきた。

 

 

これを見てやっと越前は自分たちのすべきことを理解した。

掃除をするのだ。

青年から雑巾を一枚受け取ると、雑巾を絞り越前は廊下を掃除し始めた。

 

 

「やあ、おはよう」

 

突如掛けられた声に振り向くと、そこにはいつもの様なにこやかな笑みを浮かべた不二が立っていた。

 

「おはようございまーす」

越前はそれだけ言うと、掃除の作業に戻ろうとした。

 

だが、不二の視線がいつまでも自分に向いていることに気づくと、わざと不機嫌そうな声を出した。

 

「何か用すか?」

「いや・・・・・・タカさん知らないかな?」

 

「・・・・・・知らないっす」

 

越前は答えてから少しわざとらしい態度だっただろうか、と思ったが、不二は気に留めなかったようだった。

「そう、ありがとう。じゃあね。」

 

 

不二が去ってからも越前は不二の去った方向をずっと見つめていた。

何故か冷や汗が滝のように流れ出てくる。

 

 

越前は昨日の夜の河村のことを思い出した。

 

河村の大きな体が震えていたこと、その理由は戦争への恐怖なのか、それとも何か別のものへの恐怖なのか。

越前には昨夜の河村が震えていたこと、そして今朝姿を消したこと、その二つが同一の理由であるように思えた。

 

だが、その理由がわからない。

河村には何か秘密があるのか、それともただこの現実に恐怖を感じていただけなのか・・・・・・

 

 

「集合ーーーー!!!!!」

 

まだ掃除も終わっていないというのに集合の声が聞こえた。

青年たちは雑巾を置くのもほどほどに、建物の外へ走っていく。

見れば、昨日のあの大男や見るからに偉そうな人物も次々と建物から出て行くところだった。

 

「ねえ、今から何かあるの?」

近くを慌しく通り過ぎようとする青年に問いかけると青年は短く答えた。

「行けば解るさ、さあ、早く!」

 

不可解な答えに疑問を抱きつつも越前は列に続いた。

 

 

 

***************

 

 

不二周助はすぐには走る列に加わらず、建物の中を物色していた。

 

不二が気にかけていたことは唯一つ、河村が今朝から姿を現さないことだ。

勘のいい不二は昨夜の河村の挙動不審な態度にも気づいていた。

だから、今朝理由を尋ねようと人より早く起床したのだがもう河村の布団はもぬけの殻だった。

 

何故か胸騒ぎを感じた不二はそれから今までずっと建物の中を探し回っているのだが見つからない。

そこで人が外に出て行く今、人が居て探せなかった部屋を探しているというわけだ。

 

一つ一つ引き戸を開けて中を覗くが人の気配はない。

不二が気に掛かることはもう一つあった。

河村のことを尋ねた時の越前の態度。

何か知っているようなそぶりだった・・・

何か越前は知っているんだろうか・・・・・・

 

「こら、お前!何をしている!早く続け!!!」

 

「あっ、ハイ。すみません」

 

不二はそれ以上河村を探すことをあきらめ、しぶしぶ列の最後尾に続いた。

 

 

 

**********

 

不二が目的地にたどり着くと、そこにはもう青年達が整列していた。

だが、青学メンバーだけは凍りついたように立ち止まっていた。

 

 

「?どうしたの、みんな」

不二が駆け寄ると大石が青ざめた顔をして振り返った。

 

「・・・・・・不二!見てくれ『アレ』を。」

 

大石が指差す先、そこには特攻機が3台。

青年達は特攻機に視線を向けて敬礼している。

 

そう、今日は選ばれた青年達が米軍に突撃する日なのだ。

 

そして、特攻機に乗り込んでいた青年。

不二の目は1つの特攻機、そしてそこに乗り込んでいる一人の青年に吸い寄せられた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・タカさん」

 

 

 

 

僕らはあのとき とても子供でした

自分の事で精一杯で

相手のことを気遣えなかった

もしもあのとき もっと大人だったなら

僕はもう少し生きれたのかな

 

 

 

 

 









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