「ったい・・・侑士!」

「堪忍・・・せやけど、岳人が悪いねんで」

 

 

そんな侑士の顔から垣間見えるのは愛情なんかじゃない

独占欲。

 

 

 

縁を切りたい

そう思ったことは何度もある

 

だけど俺は、知ってるんだ

 

 

 

侑士は、自分がひとりぼっちになるのが怖いんだ・・・だから力で引きとめようとする

そんなことをしても心は離れていくって分かっているはずなのに、侑士はそれしか表現を知らない

 

 

 

 

去っていった侑士の背中を見つめながら、俺は自分の腕を見た

 

 

 

 

 

腫れあがった皮膚

そこからわずかに赤く滲んだ血

 

 

 

「・・・まっじい。」

消毒代わりにぺろりと舐めると、それは酷く塩辛かった。

 

 

 

 

 

 

その日侑士の機嫌は悪かった

嫌な予感がしてたんだ

 

 

 

 

 

 

「・・・っつ!」

 

鋭い痛みが肩にはしる

焼け付くような痺れを感じながら肩を見ると、俺は体の力が抜けていくのを感じた

 

 

 

(ナイフできられた)

そう俺が理解したとき、俺の目から反射的な涙が溢れ出た

 

 

 

 

 

「が・・・岳人?・・・堪忍!ほんまに・・・」

 

我に返ったように俺を見て頭を下げる侑士

カシャン、と血のついたナイフが侑士の手から滑り落ちる

侑士も、俺にナイフを向けてしまったという事実に自分自身驚いているようだった

 

 

俺はその様子にふつふつと自分の中で沸きあがってくる感情を感じた

 

 

 

 

 

 

「侑士。・・・これ、見ろよ」

 

俺はそういって長袖を捲り上げた。

そこには無数のアザとカサブタ

 

侑士は、はっとしたような表情を一瞬覗かせた

 

 

 

 

「これ、侑士がつけたキズ。全部、全部、全部。」

 

俺はそれら一つ一つを侑士に見せ付けた

感情の、制御がつかなかった

 

 

 

 

「侑士は、俺を、傷つけた。自分が気に入らないことがあるとすぐに。理由も聞かないで」

 

「俺、殴られながら毎日思ってた。どうしてこんなことになっちゃたんだろう、って」

 

 

なぜだろう

 

 

 

 

「俺、侑士と縁をきりたいって思ってた。だけど、そんなことできなかった」

 

「俺、忘れられないんだ。侑士と笑い合って、ふざけあって、テニスしてたこと」

 

 

言葉が勝手にあふれだしてくる

 

 

 

 

 

「いつかは戻れるんじゃないか、って。あんな風に、戻れるんじゃないか、って。その希望を捨てきれなかった」

 

 

「俺にとってあの思い出は大きすぎて・・・だから、侑士を見捨てるなんてこと、できなかった」

 

 

 

 

「だけど」

 

 

「だけど、やっとわかった。今の侑士は侑士じゃねぇよ」

 

 

 

 

 

「俺の知ってた侑士は・・・俺の好きな侑士は・・・」

 

 

 

 

 

『岳人、またペース配分ミスったやろ?』

『う、うっせえ!侑士がもっと早く攻めねぇからだろ?!』

『はいはい』

『んだよそのテキトーな返事!くそくそ侑士!』

『・・・次は、絶対に成功させるで?』

『・・・おう!やっぱ侑士は最高のパートナーだ!』

 

 

 

 

 

「・・・っ・・・こんなのっおかしいだろ?」

 

ふいに俺の脳裏に映像が蘇ってきて、言葉がつまる。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「ちゃんと俺の目、見ろよ!」

 

無言で目をそむける侑士に俺は怒鳴った。

怒鳴った声は、少し震えていた

 

 

 

 

「侑士・・・気付いてた?俺を傷つけるたびに、侑士は自分も傷つけてんだよ?」

侑士の表情を見ようとしたが涙の膜で見えなかった

 

 

 

 

「俺、侑士がいつも俺を殴るとき、傷ついた顔してるの知ってる」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

「なあ、どうして分かってくれないんだよ・・・」

 

涙が次々と零れ落ちてくる

感情があふれ出してきて、俺にはもう止めることができなかった

 

 

 

 

 

「俺は、ここにいるよ・・・?どこにも行ったりしない、なのに、なんでンなガキみたいなことすんだよ侑士!!!」

 

俺は自分の涙と血の池の中に座り込んだ

肩の傷は浅かったけれど、立っていられなかった

 

 

 

 

「俺、思ってるよ。侑士が生まれてきてくれてよかった、って。侑士とダブルスが組めてよかった、って」

 

俺は、すがりつくように言った

視界は涙でぐちゃぐちゃだった

 

 

 

「だからさ・・・もうこんなことやめろよ・・・」

 

 

 

 

 

 

侑士は暫く黙っていた。

 

だけど突然、俺のところへ歩いてくると、俺の血のついたナイフを拾い上げた。

 

 

 

 

 

 

そして次の瞬間

 

 

 

グサッ

 

侑士は自分の腹に深くソレを突き刺した

 

 

 

 

「!ば、か・・・何してんだよ!」

慌てて駆け寄る俺を、侑士は手で制すると、言った

 

 

 

 

「・・・岳人も・・・痛かったん?」

「・・・?」

 

 

 

 

「こんなにも、痛かったん・・・?」

 

侑士の顔は痛みで酷く歪んでいた

 

俺は心臓を鷲づかみにされるような感じを覚えた

言葉が、出てこなかった

 

 

 

 

「堪忍・・・ほんまに堪忍・・・」

 

「・・・っ・・・ばかあやまんな!つかしゃべんなばか!」

 

 

泣きながら謝る侑士に俺の口からやっと出てきた言葉は、酷いものだった。

ここで「アホ、関西人にバカは禁句や」とでも突っ込んでくれればいいのに、侑士は儚げな笑みを浮かべただけだった

 

 

 

 

「一番大事な人傷つけて・・・俺ほんまにアホやな・・・」

 

「・・・っ、ちげぇよ!キズつけるからキズナが生まれんだよ!キズつくのなんてお互い様だろ?!」

 

 

もう意味が分からない

キズつくとかキズナとか思いついたことをまくしたてる

 

 

 

 

侑士はそんな俺をみてふっと笑った

 

 

 

「キズつくからキズナが生まれる・・・か。キズナ、キズみたいに消えへんかな?」

「消えねぇよ、一生消えねぇ!だからしゃべんな!」

 

俺はもう、必死だった

目の前で侑士の命が消えていくのが分かったから

 

 

 

 

「・・・よかった・・・」

顔をくしゃくしゃにして叫ぶ俺に対して、侑士は安心したような表情を浮かべた

 

「侑士・・・」

 

 

 

 

 

「俺・・・岳人と出会えて幸せやった。なあ・・・ほんまに今、生まれてきてよかったって思えるねん・・・」

 

侑士は、そういうと笑顔を浮かべた

久しぶりに見る、侑士の本当の笑顔に俺は胸が締め付けられる気持ちだった

 

(そうだ・・・侑士は、こんな風に笑ってたんだ・・・)

 

 

 

俺は思わず侑士の手を握っていた

血だらけになってしまったけれどそんなことは気にしていられない

 

侑士は、俺の手を弱く握り返すと、微笑んだ

 

 

 

 

 

「ありが・・・とうな・・・がく、と」

 

 

 

侑士の手がだらりと下がる

 

 

 

 

 

「侑士!死ぬなって!侑士!!!」

侑士の手は信じられないほどに重く、侑士の命が消えたことを意味していた

 

 

 

 

 

「・・・くそっ・・・!」

 

床を音がするほどに殴ると、俺の拳から血が滲んだ

乾いた涙が、一筋俺の頬を伝う

 

 

 

 

「俺、やっとわかったよ。侑士が何を望んでたか・・・俺が何をすべきだったのか」

 

俺は・・・侑士に"耐えて"たんじゃない

ただ、"待って"ただけだったんだ

 

 

 

「伝えてたらよかったんだ。ただ、侑士が必要だって」

 

侑士は、ずっと前から望んでたんだ

俺がそれに気付けなかっただけ

 

 

 

「侑士・・・ごめんな・・・」

 

もっと早くに、気付けばよかったのに。

だけど、傍らで眠る綺麗な顔をした侑士を見ると、『これが最悪の結果だった』なんていえなくて。

 

 

 

 

 

「侑士・・・俺、最後にお前と笑いあえて、すっげぇ嬉しかった・・・」

 

 

キズはいつかは消えるけど

俺達のキズナは一生消えない・・・

 

 

 

侑士の最後の笑顔は、俺の頭に焼き付いていた

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

 

 

お誕生日記念に雪乃さんに捧げます!

私なんぞの書く忍岳を好きだと言ってくださった貴重な忍岳の友であります^^笑

お誕生日ということで一応、少しメッセージ性をもたせて生と関連させてみたのですが・・・。

キズとキズナとかほんと無理がありますね↓

苦情ばんばん受け付けますので〜★

 

 

 

 

 

 

 

 

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