ウラミゴト
「殺し合いをしてもらいます」
「では、今からルールを説明します」
(なんだ・・・これは?) 鳴り止むことはなく、むしろだんだん酷くなっているような気がする。
今までに経験したことのない感覚。 緊張とも何とも言えない。
ただ心臓の音が馬鹿デカく聞こえる。
「向日くん」
「あ、・・・はい」
俺は立ち上がるとぎこちない足取りで教官のもとへ向かう。 そのとき、侑士と目が合った。
侑士は俺に、俺にしかわからないくらい一瞬、メモのようなものを見せた。
そこに俺が見た文字は
【Z7】 (ゼットノナナ)
俺は目だけで頷くとディバッグを受け取り教室を後にした。
心臓の音は、いつの間にか止んでいた。
俺の予想では、俺以上の当たり武器を持っているやつなんていないはずだったから。
「てか、、、あいつ馬鹿だろ」
地図で見ると一番端のエリア。 何もないだだっ広い土地で、強いて言えば森があるくらい。
俺がもしメモを回す立場なら、きっと真ん中あたりの建物がたくさんあるエリアに設定しただろう その方が会いやすい、と単純に考えただろうから。
「ま、こんなとこまで歩いてくるやついねーだろうし、建物とかより安全かもしれねーけどよ」
一人言いながら思った。
(この状況でそんな深く考えられるなんて、流石ゆーしだな)
************
「おせーな侑士」
俺は切り株に腰掛けて大きすぎるマシンガンを抱いて侑士を待っていた。
俺がここに来てもう5時間。
真昼の太陽は、赤い夕日に変わろうとしていた。
今回は名簿の後ろ側からの出発。
侑士はかなり後の順番。 だが単純計算で行くと、俺の3時間後に侑士は出発しているはず。
俺のときよりたくさん人が出発してるからてこずるのは分かるけど、ここまでの道はすごく単純だったからたとえ間に何かあったとしてももうすぐ着かなきゃおかしい
(侑士の武器ってなんなんだろ)
ふと思った。
(俺みたいに、マシンガンみたいな武器だったらいいんだけどな・・・)
にわかに不安がこみ上げてくる
いくら頭のいい侑士でも銃を持った相手にナベの蓋で応戦できるとは思えない
(もしかして・・・)
ドクン。
心臓の音が聞こえた。
そんなとき、
「はい、皆さん気分はどうですか?」
放送がなった
「今から死亡者と禁止エリアの発表をしますね。今回は特別ルールとして詳しい死亡状況を発表します。200名以上のバトルロワイアルだから優勝したい人は参考にしてくださいね」
(のん気な声出しやがって。)
俺はスピーカーを睨みつけながら地図と鉛筆を取り出した。
「では、発表します。今回の死亡者は15名。宍戸亮くん、鳳長太郎くん、共にC3エリアでの死亡です。つづいてE2エリアで・・・」
聞きなれた名前を最初に耳にしたときは驚いたが、侑士の名前はなかった。
不謹慎ながらにも少しほっとしている自分がいた。 侑士の安否以外に全く気が回らないところを思うと、すごく自分が非情な人間になった気がした。
「次禁止エリアです。今から言うエリア内は4時間後に完全に封鎖しますので早めに立ち退いてくださいね。A2、B5、D7、G4、L2、N1・・・」
(良かった、Z7は入ってない)
俺はまた少し安心した
これでまだ侑士に会える可能性は十分にある! 侑士はここに来るはずだ
「次の放送は6時間後です。優勝を目指す方はもう少しペースをあげてくださいね。」
放送の後俺は、かなりの脱力感を感じその場に座り込んだ。 途端、眠気が襲ってきた。
***********
それにしても、Z7というエリアはとことん安全なエリアらしい。
俺はあくびをしながら思った
(良いのかよ・・・俺誰とも会ってねーし)
現に数時間無防備に熟睡していたらしいが俺の体には傷一つなければ、荷物にも全くもって違和感がない。
(次あたり、禁止エリアに設定されんなここ)
それにしても、侑士が来ない
時計を見ると、あと1時間で次の放送がかかるという頃だった。
「侑士、何してんだよ・・・」
(もしかして、侑士はゲームに乗ったんじゃ) 俺の頭にまた嫌な考えがよぎる
侑士、頭いいし、口うまいし、その気になれば・・・
俺はそこまで考えて首を大きくふった そしてそんな考えを振り払うように声に出した
「侑士は絶対に来る!」
俺は侑士のことを誰よりも知ってるじゃないか 侑士は絶対に裏切ったりしない
絶対に、死んでもこの場所に来る だから俺は死んでもここで待ち続けるんだ
******
考えている間に、どうやらまた眠っていてしまったようだった。
「二回目の放送です。死亡者と禁止エリアを手短に発表します。まず今回の死亡者は60名」
(ろ、ろくじゅうにん・・・!?うそだろ!?)
あまりにも多い。 6時間の間に、60人もの部員が死んだんだ。
俺は、自分が何の危険にも遭遇していなかったから気づかなかったけれど、この島では実際にそんな殺戮が行われていたんだ。
(・・・・・・怖い)
俺は地図と鉛筆を取り出した。 わずかに手が震えているのがわかった。
「T4エリアで日吉若くん・・・」 俺は手を押さえながら死亡者を地図に書きいれ始めた。
「A8エリアで芥川慈郎くん・・・・・・L2エリアで忍足侑士くん、あら、禁止エリアなのに立ち退かなかったのね・・・R6エリアで・・・」
手が、止まった。
心臓が高鳴った。
「いま・・・・・・侑士って言ったか?」
地図を持つ手が震える。 左手のペンは、手の中から転げ落ちた。
女の声が頭の中にこだまする
『L2エリアで忍足侑士くん、あら、禁止エリアなのに立ち退かなかったのね・・・』
禁止・・・エリア?
Lの2、 建物や集落が密集している場所。
ドクン。ドクン。
何で? 何で侑士こんな場所にいたんだよ?
俺は侑士のメモを思い出した
「Z7」
ドクン。ドクン。ドクン。
ひっくり返すと・・・
「L2」
「侑士!」
俺は走った。
L2エリアまで。
途中多くの死体を踏んづけたように思ったが気にしていられない。
ドクン。ドクン。
どうして気づかなかったんだ?
よく考えたら分かっただろ?
「ば・・・かやろっ」
勝手に涙が出てきた。
*****
「はぁ、はぁ・・・」
でも、俺の視線は一点に吸い寄せられた
ドクン。ドクン。 心臓の鼓動が速くなる
「侑士・・・」
侑士は、そこにいた。 「Z7」もとい、「L2」と書いたメモを握り締めて。
ドクン!
頭が、真っ白になった。
「ユウシ・・・」
きっと、ずっと待ってたんだ 俺が来るまで、生き延びようとしてたんだ ジャージが血に汚れているのは、誰かを殺したから。
ドクン ドクン
「ナンデ・・・?」
バカみたいに、何日も待ち続けて 禁止エリアになったのに逃げもせずに 俺が来る保証なんてどこにもなかったのに
ドクン ドクン ドクン
「オレハ・・・ナニヲシテイタ?」
「てか、、、あいつ馬鹿だろ」「ま、こんなとこまで歩いてくるやついねーだろうし、建物とかより安全かもしれねーけどよ」「おせーな侑士」「侑士、何してんだよ・・・」
ドクン ドクン ドクン
「ユウシ・・・オレハ、ダレヲウラメバイイ?」
ドクン ドクン
「ユウシ?」 ドクン ドクン ドクン
「コノゲーム?」 ドクン ドクン ドクン
ピ ピ ピピピ 首輪の電子音はどんどん速くなっていく
ドクン ドクン ドクンドクン 俺の心臓の鼓動も早くなっていく
(ソレトモ、オレジシン・・・?)
ピーー――――― ドク・・・ン
意識は、暗転した。
〜END〜
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