……外は雪。

 

こんな日は……あの日の事を思い出す

 

 

 

 

 

『寒いね……』

 

 


どこからか聞こえるその声は風に乗った誰かの叫びか、俺の記憶の欠片か。

 

 

 

 

 

 

降ル

 

 

 

 

 

「午前2時30分。第12回バトルロワイアル開始。諸君の健闘を祈る、行ってよし!」

 

あの日、未だ耳について離れない忌々しい顧問の声と共に俺達はわけの分からない場所に放り出された。

しかも。

凍えるような寒さの中。

 

 

 

 

 

 

「寒い。」

 

ぽつん、と誰ともなしに呟くと冷たく刺すような空気が唇を乾かせる。

その感覚が気持ち悪く、日吉は唇を舐めた。

 

するとまたその水分が蒸発して余計に寒くなり、日吉は「寒い。」、と先ほどから同じことを繰り返しているのだった。

 

寒いと言ってみたところでこの寒さから救われる訳ではない

何かしなくては―――と言うより何かしなければこの寒さでは凍え死ぬのがオチだ。

 

 

こういう時は運動をするのが一番体が温まる方法なのだが、あいにくこの状況では、無闇に行動を起こすのは危険極まりない行為だった。

 

 

―――とはいえ、このままじっとしていればいずれ誰かに見つかる、否、それ以前に凍え死んでしまう。

 

 

 

 

「はぁ・・・」

 

思わず出たため息は、白い息になって一層寒気を煽らせた。

 

 

 

 

(・・・何だって俺がこんなこと。)

 

日吉は震える手でジャージのポケットから折りたたんだ地図を取り出し、現在地らしい場所を照らし合わせながら一歩ずつ歩を進めた。

 

 

 

(G3・・・は駄目。H2・・・も駄目。)

 

改めて地図を見た日吉はこの島の構造の単純さというか、このゲームのために作られたかのような地形に驚かされた。

 

 

(この地図が正しいとしたら、最悪だな)

日吉は何度目か知れない深いため息をついた。

 

森を除くと身を隠せそうな場所は何処にもなく、ただだだっぴろく開けた場所が広がっているだけ。

集落や灯台などと建物もあるようだったが、べつに特にゲームに乗る気のない日吉にとってそこは魅力的な場所でも何でもなかった。

 

 

とりあえず日吉は、分校と丁度反対の地点にある森を目指すことにした。

 

 

 

 

 

歩いていると、ふと日吉の頭の中にある人の顔が浮かんできた。

ふわふわとした金髪で、いつもけだるそうな雰囲気を漂わせている、芥川慈郎。

 

 

日吉と芥川は、不思議な関係だった。

もともとは二人のどこか冷めた性格が一致したことから二人の関係は始まった。

 

初めのキスは、ふとしたきっかけだった。

当の本人たちですら、思い出せないくらいの些細なこと。

 

 

 

唇を重ねた瞬間、日吉は確かに安らぎを覚えた。

 

 

 

そこに愛が在ったのかなんて知れない。

かといって、欲情に流されてしたものでもない。

目的なんてなかった。

 

ただ、日吉も芥川も、自分の居場所を求めたのかもしれない―――

 

 

 

 

(あの人は、何をしているだろう・・・?)

 

 

 

 

そう、思った時、日吉はふいに何かにつまづいた。

知らず知らずの間にぼーっとしてしまっていたらしい。

 

 

足元を確認した瞬間、日吉は驚いた。

そして次の瞬間、このゲームが始まって以来一番深いため息をついた。

 

 

「・・・・・・ったく。こんな状況でよく寝れますね。芥川先輩!」

「・・・・・・ん〜〜??誰ー?」

 

芥川は日吉の声にも動揺することなく、呑気に寝返りをうった。

 

 

 

「・・・日吉です。起きてください、こんなとこで寝てると殺されますよ」

「誰にー?」

 

芥川の質問に日吉は一瞬答えを詰まらせた。

脳裏に、跡部や鳳、樺地の姿がよぎったからだった。

 

だが、日吉はそれをかき消すように言った。

「・・・それが、このプログラムのルールですから」

「・・・ふーん・・・。ならいいや。」

「?・・・え?」

 

 

「俺ここでこのまま寝とくから」

 

「・・・!?アンタ、一体何を言ってるんですか?さっき言ったばっかりじゃないですか!こんなとこにいたら」

「『殺される』んでしょ?」

芥川は日吉の言葉を途中で奪ってあっさりと言った。

 

 

「いいよ、別に」

「!?・・・なっ・・・」

「跡部とか、忍足とか、岳人とか、宍戸とか、アイツらに殺されるなら俺べつにいいC〜?」

 

 

「・・・・・・」

「あ、でも痛いの嫌だから寝とくの。寝てる相手を苦しめて殺そうなんて、誰も思わないよね。」

 

 

 

 

 

「俺、寝るの好きだし、寝てるときは幸せなんだ。幸せに死ねるなんてスゲーいい考えだと思わない?」

 

「・・・・・・」

 

 

芥川は目を輝かせて日吉に言った。

その目は、氷帝に居た時の目と何一つ変わっていないと日吉は思った。

 

 

 

 

 

 

「だから、日吉は行ってE〜よ?」

 

 

 

 

「・・・言われなくても」

 

 

 

「え?」

 

「言われなくても行きますよ。アンタに付き合ってこんなとこで死んでたまるか」

 

 

 

 

日吉は地面に置いた自分のディバッグを持ち上げた。

芥川はそんな日吉をどこか冷めた視線で見上げて言った。

 

 

「ふーん・・・日吉は・・・生きたいんだ。こんなゲームで。」

 

「あいにく俺の幸せはここには存在しないんで」

 

 

 

日吉が言い放つと、芥川は日吉に背を向け寝転がった。

 

 

 

「・・・そっか。じゃ、行きなよ」

「はい、失礼します。それじゃあ」

 

 

 

 

日吉は、小さく芥川の背中に『また後で』と呟いたのだが、当然ながら芥川にそれは聞こえなかった。

 

 

 

日吉は、ポケットから黒く鈍く光る銃を取り出し強く握った。

 

 

 

 

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もう目を覚ますことはないだろう

 

 

 

去っていく日吉の背中を見つめそう思いながら、芥川は眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

ところが。

 

 

 

 

 

「先輩。起きてください」

 

 

芥川は無機質な声で起こされた。

 

 

 

 

 

「ん〜…日吉。……」

「おはようございます、芥川先輩」

 

 

日吉はそう言って、薄い笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

「何で起こしたの?俺このまま寝たいっつったじゃん」

 

芥川の声は寝起きということもあってか不機嫌そうだった。

 

 

 

 

 

「残念ですけど」

 

 

 

 

「もうこの島にはアンタを殺してくれる人はいませんよ」

 

 

 

「……??」

芥川の見開いた大きな目を、日吉は冷たい目で見つめ返した。

 

 

「どういうこと?」

 

 

 

 

「俺が」

 

芥川は冷静な目で日吉をじっと見つめた。

 

 

 

 

「俺がこの手で」

 

 

 

 

 

「全員殺したからです」

 

 

 

 

 

「……」

 

「だからもうこの島には俺とアンタしかいないんですよ」

 

 

 

「……そっか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も、言わないんですか。聞かないんですか。」

 

芥川のあまりの薄い反応に日吉が困惑の色を浮かべると芥川は笑顔で言った。

 

 

 

 

「べつに。日吉はだって、今から」

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

「俺を殺してくれるんでしょ?」

「!?………」

 

 

 

 

 

「ね?最後の一人を、殺しにきたんだよね?」

芥川は念を押すように日吉の顔を見た。

 

 

 

 

 

 

「………そうですよ」

 

 

日吉は、一旦唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

「俺は」

 

 

「俺はアンタを」

 

 

 

 

 

 

「殺しに来ました」

 

 

日吉はポケットから銃を取り出した。

 

芥川はそれを見ても怯むこともなく、ただ先ほどと同じ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「俺は今から、アンタを殺して優勝します」

 

「…うん」

 

 

 

 

「たくさんの部員を殺したこの銃で、アンタを…殺します」

 

「わかってる」

 

芥川は相変わらずの微笑みで日吉を見つめた。

 

 

 

 

 

 

「死んだら、全部、終わり…ですよ?」

「うん」

 

 

 

「今感じてる事も、テニスをしてたことも、…俺とアンタの思い出だって、全部なくなるんですよ」

「わかってるよ!」

 

 

芥川は少し声を荒げた。

 

 

 

 

「…でも俺は、それでもいいんだ」

 

 

 

「……どうして」

 

 

「だって。俺には、居場所がないんだもの。」

 

「……」

 

 

 

 

「日吉になら分かるでしょ?」

 

何の反応も示さない日吉に芥川は畳み掛けるように言った。

 

 

 

 

「心の居場所が、生きてる幸せなんて見つからなかった。」

 

「…………」

 

 

 

 

「いっそずっと寝てられたらどれだけ幸せだろう、ってそう思ってた」

「………」

 

 

 

 

 

「だから

 

 

バンッ

 

 

 

芥川の言葉を遮るかのように日吉は引き金を引いた。

反射的に、日吉の目からは涙が溢れ出た。

 

 

弾は芥川の胸を貫いた。

芥川は、撃たれた瞬間、また笑った。

 

 

 

 

 

 

「どんな気分ですか?これからは、一生眠れますね」

 

日吉は、倒れた芥川に対してそんな言葉を投げかけた。

芥川は、胸を押さえながらも日吉を精一杯見上げて言った。

 

 

 

 

「…最高。でも……ちょっと寒い…C〜…?」

 

 

芥川の体は小刻みに震え始めていた。

体中の血液が流れ出しているのだから無理もない。

 

 

 

 

 

「もう少しで、その感覚すら、なくなりますよ」

 

 

日吉は、芥川に近寄るとその体をそっと抱き寄せた。

芥川は、少し体をこわばらせたが、以前のようにそれを受け入れた。

 

 

 

 

 

唇を蒼くし、ますますがたがたと震える芥川を日吉はしっかりと抱えた。

 

 

「……寒いね……」

「冬ですからね」

 

 

 

 

 

「でも」

芥川は一旦そこで言葉を切ると、何度目か知れない笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「あったかいね…日吉」

 

 

ひゅうひゅう、という力ない息と一緒に漏れたその言葉は、日吉の耳に真っ直ぐ届いた。

 

同時に、芥川の体のどっしりとした重みを腕に感じた。

 

 

 

 

 

 

「…先輩?芥川先輩…?」

 

揺さぶった体は気温のせいだけではなく冷たく、芥川が返事をすることはなかった。

 

 

 

 

「死んだ…んですね」

 

日吉がそう呟いたとき、ふいに頬にひやりと冷たい感触を感じた。

 

 

 

 

 

「……雪?」

 

降り続く雪に、血の赤はよく映えた。

 

 

雪は、目を閉じた芥川の顔にも降り注いだ。

 

 

日吉は芥川の唇に積もった雪をそっと指で拭った。

 

 

 

 

 

 

「先輩。俺は先輩に殺されるつもりだったんですよ。」

日吉はじっと芥川の顔を見つめた。

 

 

 

 

「先輩には、誰にも殺されてほしくなかった。だから俺はずっと芥川先輩のすぐ傍で、皆を殺し続けたんですよ」

長い睫毛。

 

 

 

 

「…気づいてたんでしょう?」

 

大きな目はもう開くことはなくて。

 

 

 

「俺は、やっぱり、敵わないんですね」

 

形の良い鼻も。

 

 

 

 

「俺じゃ、アンタの居場所には、なれなかったんですね」

 

全てを、今愛しいと感じた。

涙が、溢れ出た。

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、こうしてるときだけは、」

 

 

 

「こうやっているときだけは、俺は、」

 

 

日吉の涙が芥川の頬にぽたりと落ちた。

 

 

 

 

 

 

「自分の居場所があるような気がしてました―――」

 

日吉は冷たくなった芥川の唇にそっと、口付けた。

 

 

 

 

 

同時に”ゲーム終了”の放送が鳴り響いた。

 

雪はその日、いつまでも降り続いていた―――――

 

 

 

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

 

相互記念に、叉倉さんへ捧げます。

ジロ日という珍しいCPをリクしてくださり、また自分の中での妄想が広がりました(笑

実際この二人の組み合わせ、書いていて楽しかったです!!

エセなのは書きなれていないので仕方ないということで;

言い訳はしだすときりがないのでこの辺りでw

相互・そしてリクエストありがとうございました!

 

 

 

 

 

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