俺は今完璧な人生プランを着実に歩んでいる。

そこそこの大学を無事に卒業し、警察官という正義感に満ち溢れた職業に就いた。

俺はこのまま思い描いたとおりに人生を送るのだろう。

 

そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・は?」

「いや、だから、少しの間行ってきてほしいんだ・・・そのナントカという国に」

 

上司に呼び出されたから何事かと思えば。

 

 

「・・・要するに、飛ばされる、ということですか」

少し眉をひそめると上司の笑顔がひきつった(この顔つきは生まれつきのものなのだが)

 

「飛ばされる、ってそんなものじゃないんだよ真田くん。だから君は優秀だしねぇ、その・・・」

 

目線をうろうろさせながらせわしなく指を動かす上司を見て俺は悟った。

 

 

 

(この上司に何を言っても無駄だな。)

きっと上から言われたことをそのまま言っているだけだ

 

 

「分かりました。」

そう言うと上司の顔が一気に明るんだ。

 

 

「そう言ってくれると思ってたよ!いや、向こうでも頑張ってくれ、真田くん!」

 

「いえ、それでは」

俺は作り笑顔一つせずに部屋を後にした。(そもそも俺に笑顔という表情があるのか謎だ)

 

 

 

要するに、体のいいやっかい払いという話。

 

 

周りに言わせると「正義感が強すぎる」ということ。

今まで一番上で全てを仕切ってきた俺にとって、警察というタテ社会は向いていなかったようだ。

 

 

名前も聞いたこともないような国へ、俺は転勤することになった。

何でも、ある街の大量誘拐事件を検証しレポートをまとめれば帰れるらしいが何年かかる作業なのやら。

 

 

俺はため息をつき、さほど散らかっていないデスクを片付け、山のような資料をかかえて事務所を後にした―――

 

 

 


*****

 

 

 

目の前にはとてつもなく大きな屋敷。

「馬鹿でかいな・・・」

 

 

俺は噂の街についたが、街には特に何もなく有益な情報を得られることもなかった。

そこで少し郊外まで出てみたところ、この怪しいとも思えるほどに大きな屋敷が目に入ったというわけだった。

 

 

 

「一応調査しておくか」

俺は屋敷の敷地へ足を踏み入れた。

 

が、すぐに門番二人に呼び止められた。

 

 

 

「(部外者の方は立ち入り禁止となっているのですが)」

 

「・・・?」

 

 

(何語だ?)

今門番が話している言葉は俺が全くもって聞いたことのない発音だった。

俺はとりあえず身分を証明しようと思い警察手帳を突き出した。

 

 

「真田弦一郎だ」

 

だが門番はきょとんとした表情をしたまま、警察手帳を見ていた。

俺が更に手帳をぐいと突き出すと、二人の門番は俺を追い出そうと俺の両腕をつかみ引きずろうとした

 

 

「貴様っ何をする!全員逮捕するぞ!」

 

「(申し訳ありませんが主の仰せ故・・・

俺が暴れていると、門番二人は少し申し訳なさそうな表情を覗かせながらも腕の力を緩めることはなかった。

 

 

「(何をしている)」

そのとき、ふいに凛とした声がその場に響いた。

 

 

 

見ると、厳格そうな男が立っていた。

男を見るなり、二人の門番が急にかしこまったところを見るとこいつがこの家の主なのだろう。

 

 

主は門番を見ると、何かを言った。

門番の手が、俺から離れた。

 

 

 

 

主は、俺を見ると言った。

 

「どうぞ。入ってください」

 

「に・・・日本語?」

 

 


*****

 

 

「ずいぶん大きな御邸で」

 

俺は言いながら、大きなステンドグラスを見上げた。

一点の汚れもなく、ぴかぴかに磨かれていた。

 

 

「いえいえ、ただ大きいだけですよ」

主は軽く苦笑した。

もちろん謙遜ではあるが嫌味な感じはしなかった

 

だから俺もつられて少し笑った

 

 

「お仕事は?」

「貿易関係ですよ」

 

「だからですか、日本語を話せるのは」

「・・・ええ・・・・・・ところで、今日はどういったご用件で?」

 

主に導かれ到着したのは少なくとも20畳はあるであろう大きな居間だった。

中央には大きなシャンデリアが飾ってある。

 

 

「ああ、この辺一帯で誘拐事件が多発しているのでその調査に・・・日本人も何名か犠牲になっているみたいで」

「誘拐事件ですか・・・怖い世の中ですね」

「ええ、それで聞き込みに」

 

「そうですか・・・有力な情報は無いとは思いますが、協力させてもらいますよ。どうぞ自由にしてください」

 

 

主はそう言うと、「少し仕事があるので」と言って俺をおいて部屋を出て行った。

 

 

 

 

俺は居間を見回すと、屋敷を探索することにした。

 

 

(使用人もいるはずだ・・・聞き込みでもしてみるか)

そう思って歩き始めたとき、ドンッと誰かにぶつかった。

 

 

 

「すまない!」

「・・・」

 

ぶつかったのはブルーの瞳、黒い肌をもつ青年だった

青年は丸い目で俺を不思議そうに見つめるばかりだった

 

 

(・・・日本語は通じないんだったな)

「あ・・・その、」

 

 

(なんといえばいいのだろう)

うろたえる俺に対して青年はきょとんとした目で真田を見つめるだけだった。

 

 

 

「・・・・・・あー」

「あなた、日本人ですか?」

 

「?!あ、ああ・・・そうだが。君は?」

突如流暢に日本語を話した青年に驚きつつも俺が返事を返すと、青年は照れくさいような困ったような笑みを浮かべた

 

「僕は・・・名前はないです。それより、日本人がどうしてここへ?」

「ああ、そのことなんだが。この辺りで誘拐事件が多発しているらしくてな。俺は今回その調査に来たんだ」

俺は警察手帳を一応見せた

 

 

「!・・・あ、そうですか・・・」

 

(?)

俺は青年の反応に違和感を覚えた。

それまでは爽やかな笑みを浮かべていた青年が、『誘拐事件』という言葉を聞いた瞬間落ち着かなくなった

表情からは焦り、恐怖といった種のものが読み取れた

 

 

「・・・もしかして、君は何か知っているんじゃないか?」

「!・・・そんなこと」

俺が追求すると青年の顔はますます青白くなり、何かを隠していることは明らかだった

 

「・・・話してはくれないか?頼む・・・!」

「・・・ここでは、話せません。場所を変えましょう、その方が都合がいい」

 

 

 

*****

 

 

 

青年に連れてこられたのは薄暗い倉庫だった

 

「ここは・・・?」

「倉庫です。入っているのはガラクタばかりですけどね。ここなら、主に見つかりません」

青年は苦笑しながら言った

俺の頭は疑問でいっぱいだったが、俺はとりあえず青年の出方を待つことにした

 

 

 

「それで・・・日本の警察の方、ですよね?」

「ああ、そうだ」

 

「実は・・・ここの主は誘拐者であり殺人者です。いろいろな国から奴隷を集めて、毎日のように奴隷を殺しています」

「!?まさか・・・」

俺の頭に人の良さそうな主の笑顔が浮かんだ

(あの人が・・・誘拐?殺人だと?)

 

 

 

「信じられないというなら結構です。仕方のないことでしょう。だけど、これを見てください」

青年はそういうと俺に分厚いノートを差し出した。

 

「これは・・・?」

「僕が作った殺された人たちのリストです。僕は小さい頃からずっとここにいるから、20年分くらいあるはずです」

「少し貸りるぞ」

 

 

青年から分厚いノートを受け取ると俺はそれを見ながら自分の記憶と照合してみた。

(!この名前・・・!)

そこには何人か誘拐事件の被害者と同じ名前があった

 

(間違いない、誘拐事件は此処で起こっていたんだ・・・しかも何年にも渡って・・・!)

俺は確信した、胸の奥が波打つのが分かった。

 

 

俺は青年を見ると言った。

「このノート、しばらく貸してもらってはいけないだろうか・・・?」

「ええ、良いですよ。・・・どうせ僕が持っていても役に立ちませんから」

「かたじけない」

 

 

俺はそう言ってノートに視線を戻し数ページをめくったその時、

俺の目に、”アリエナイ名前”が飛び込んできた

 

 

 

「丸井・・・ブン太・・・?ジャッカル桑原・・・?!これは・・・!!」

その瞬間、俺の脳裏に恐ろしい記憶が過ぎった

 

中学 最後の全国大会

その前に忽然と姿を消したレギュラー2人・・・

学校を挙げて捜索したものの、結局2人は帰ってこずに、俺の中学の全国優勝は叶わなかった・・・

 

 

「まさか・・・こんなところで」

俺が呆然と呟いたその時。

 

 

 

ガチャ

 

「何をしているんです?」

 

ドアを開けたのは主だった。

主は先ほどとは打って変わった薄い笑みを浮かべている

 

俺は咄嗟にノートを背中に隠した

 

 

 

「おやおや、隠し事ですか?困りますね・・・」

「否、俺は何も・・・」

「分かっていますよ。何もかも、知ってしまったんですよねぇ」

 

主の口がつりあがる。

俺は言い知れぬ恐怖を感じた

 

 

「知らなければよかったものを。どのみち、そのまま気は毛頭ありませんでしたが・・・ね」

主はそういうと青年ににこりと微笑みかけた

「・・・俺は」

青年は、俺から目をそむけた

 

 

(嵌められた。)

そう分かったときには、俺はもう何人かの使用人に取り押さえられていた

 

 

 

「処刑なさい」

主はそういい捨てると倉庫を跡にした。

 

 

 

俺は静かに青年を見上げた

青年は、ゆっくりと俺に視線を合わせた

 

俺は一言だけ、言った

「生きろよ」

 

最後に見つめた青年の目に、曇りはなかった

 

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

現夢円さまに76000打を記念して捧げます。

とことん暗い話を!と思い書きました。

密かにブンジャの「ずっと一緒」という作品の続編になっていたりしま・・・す 笑

アトガキとして伝えたいことは特にはありません。

本当に自由に想像していただきたいと思って書いたものなので。

続編として満足のいかないものかもしれませんが受け取っていただければと思います。

 

 

 

 

 

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