真夜中の森。

木の幹にもたれかかっている二人の少年がいた。

青と白のジャージを身に纏った少年たちの首には、無機質な金属の首輪が光っていた。

 

 

 

がタメ

 

 

 

「部長。いま何時っすか?」

「0時を数分過ぎたところだ」

 

「ゲーム終了は」

「6時だ。」

越前は表情ひとつ変えず言い放った手塚の横顔をしばらく眺めていたが、手塚の反応がないと分かるとその場にごろんと横になった。

 

 

 

「・・・・・・こんなことって、あるんすかね」

「珍しいには違いないだろうがな」

 

手塚からの反応を期待せずに呟いた一言に予想外に手塚が反応を示したから、越前はくすりと笑った。

それからしばらくはどちらも喋ることはなかった。

 

 

 

「みんな・・・・・・殺しあったんですよね・・・」

「・・・・・・だろうな」

 

遠い目をした二人の視線の先にはただただ綺麗な星空が広がっていた。

 

 

 

「俺たち、隠れてただけなのに」

「ああ」

 

抑揚のない二人の声は、誰もいないこの島によく響いた。

 

 

 

「幸運なのか・・・不運なのかわかんないっすけど」

「最後の二人になってしまったな」

 

最後は越前の言葉を手塚が引き継いだ。

越前が手塚を見ると、手塚も越前を見返し、二人はかすかに笑った。

 

 

 

 

 

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 

最後に交わす言葉になることは、二人とも知っていた。

 

 

 

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数時間後、隣りから寝息が聞こえたことを確認して手塚国光はむくりと起き上がった。

隣りを見ると越前は、年相応のあどけない寝顔で眠っていた。

 

 

 

手塚はそんな越前の様子を数秒見つめ笑みをもらしたあと、ディバックを探った。

 

まず出てきたのは血まみれの青学レギュラージャージだった。

刺繍された名前は【乾貞治】

手塚はそれを数秒見つめると、たたんでディバッグに仕舞い、さらに中を探った。

 

 

そして奥深くにしまった紫色の小瓶を取り出した。

ラベルには【毒薬】と書かれている。

 

 

 

手塚はその文字を数秒間見つめた。

 

(案外、鮮明に思い出せるものだな)

 

 

*****

 

 

ゲームが始まったとき、手塚に支給された紫色の小瓶数本。

いかにもうそ臭い字で書かれた【毒薬】の文字。

 

(・・・オモチャか)

手塚はそれを一本近くの井戸に投げ捨てた。

 

 

 

その直後だった。

 

「あー喉かわいたっ!あんなペットボトルじゃ足りねーなあ、足りねーよ」

「うっせぇ、お前はもっと静かにできねぇのかよ、殺されるぞ」

 

桃城と海堂がそれぞれ片手に銃を持って現れた。

二人がゲームに乗っている様子は見られなかったが、手塚は咄嗟に近くの茂みに隠れて様子を伺うことにした。

 

 

「大丈夫だって、いざとなれば”コレ”でやればいいんだろ?」

「・・・・・・まあな」

 

手塚はこのとき二人の目の色が変わったのを見逃さなかった。

 

 

 

「おっそれより井戸じゃねぇか!水飲もうぜ!」

「そうだな」

 

手塚は二人が井戸の水を飲み干すのをじっと見つめていた。

脳裏にある考えがチラリと浮かんだが、手塚はそれをかき消した。

 

 

 

「うめぇ!水ってこんなにうまかったっけ?」

「ああ、少し甘いような感じだな」

 

 

(・・・・・・)

淡い期待の裏切りと共に、二人に見つからないよう手塚はそっとそこを去ろうとした。

その時だった。

 

「んっ!・・・・・・ぐぁっ?!」

「どうした桃城!・・・!?」

 

 

振り返ると、桃城と海堂が大量の血を吐いて倒れているのが見えた。

 

 

手塚はおそるおそる二人に近づいたが、まったく二人が動きだす気配はなかった。

 

さらに近寄ると、二人の表情がはっきりと読み取れた。

苦しそうに顔をゆがめ、血がぬけて白くなった顔。

 

 

 

 

 

「・・・・・・これは・・・」

 

手塚はディバックの中の紫色の小瓶のことを思った。

震えが止まらなかった。

 

 

 

(俺は・・・・・・俺が、この二人を殺した・・・のか?)

 

 

知らなかったとはいえ、井戸に毒薬を投げ捨てた自分。

さらに二人が井戸に近づいても警告もしなかった自分。

 

 

 

「・・・・・・俺が、殺したんだな」

声に出して言うと思った以上にあっさりと現実を受け入れた自分がいることに手塚は気づいた。

 

 

そのとき、手塚の脳裏にふと浮かんだのは、先ほど一瞬桃城と海堂が浮かべた冷たい顔。

 

 

 

「俺は・・・」

 

手塚は足元の銃二本を拾い上げ、自分のディパックにしまった。

 

 

*****

 

 

紫色の小瓶の中身は、パッケージと同じ紫色のどろどろとした液体だった。

 

「越前・・・・・・」

 

お前には生きてほしい

俺は、お前のためなら

誰の命さえも

俺自身の命さえもちっとも惜しくない

 

 

 

「すまない、越前・・・」

 

手塚は涙で潤んだ目でもう一度越前を見つめると、それを一気に飲み干した。

 

 

 

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明け方の島に、突如けたたましい交響曲がなりひびき、越前リョーマは目を覚ました。

 

「ん・・・・・・なに」

 

 

 

それとともに政府の男の嬉しそうな声がスピーカーから流された。

 

「死亡者一名、手塚国光。よって優勝者、越前リョーマ!おめでとう!」

 

 

 

越前は、まだ完全に開かない目をこすり頭をおさえていたが、放送が流れきった瞬間、勢いよく自分の隣りを見た。

 

「ぶ・・・・・・ちょう」

 

そこに越前が見たのは、乾いた血の海で横たわる手塚国光の変わり果てた姿だった。

 

 

 

「・・・・・・」

越前はしばらくの間何も言わずに手塚を見つめていた。

 

 

 

「・・・・・・あー・・・なんだ、やっぱ・・・夢じゃなかったんだ―――?」

 

作り笑いを浮かべた越前の頬を涙が伝った。

 

 

越前は手塚に寄り添うと、その顔をじっと見つめた。

整った綺麗な顔が青白く、まるで彫刻のようだった。

 

 

「部長・・・・・・俺、実は・・・気づいてましたよ?」

 

手塚は越前の問いかけに答えるはずもなく、ただただ越前の涙まじりの声だけがその場に響いた。

 

 

 

「部長がみんな、周りの人殺したってことも、部長が自殺した瞬間も・・・・・・俺、全部知ってましたよ?」

 

涙でもはや声になっていないにも関わらず、越前は手塚に語りかけ続けた。

 

 

 

「部長が死ぬとき、俺、涙とまんなくて、」

 

越前の流した涙が、次々と手塚の無表情の顔に落ちた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、俺はね?部長」

 

越前はそこで、無理やり作り笑いを浮かべ、言った。

 

 

 

 

 

「『部長のため』に、気づかない振りしてたんですよ?ねぇ・・・・・・」

 

 

部長のためなら、惜しくなかった

部長が喜んでくれるなら何でもできた

俺の全ての人生を捧げることさえも

 

 

 

「答えろよっ・・・・・・部長・・・っ!」

 

 

 

 

 

ゲ ー ム 終 了

 

午前4時30分のことだった。

 

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

 

 

55555ヒット、ありがとうございます!

天海弥心音さんよりリクエストいただきました、「塚リョのバトテニ」です。

塚リョというとお互いが思いあっているという感じがするので・・・・・・それによってお互いが悲しい思いをするという話を描きたいなと思い書きました。

気に入っていただけると嬉しく思いますv

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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