指き

 

 

 

叶わなくてもいい、ただ密かに想えるだけでよかった。

それに、僕自身それが恋という感情なのかさえも解らなかったから。

 

ただ見ているだけで十分だったんだ。

 

 

 

 

だけど・・・・あの日。

 

 

 

 

いつもは図書室なんて滅多に行かない。

だけどその日は図書委員の友達の代わりに僕が図書室へ行かなくちゃいけなくなった。

 

図書室、というと真っ先に君の顔が思い浮かんだ。

 

 

 

図書室に入ると案の定、君はカウンターに座って、難しそうな洋書を読んでいた。

図書委員の仕事やらなくていいのかな、そう思ったけれどもうすぐ部活が始まるとあって手塚と僕のほかに図書室に人の気配はなかった。

 

手塚の表情は伏せた顔でよく見えなかった。

 

僕が少しカウンターに近づいても、手塚は本に集中して気づかないのか顔をあげようとはしなかった。

 

 

もう少し近づいてみるけれど、手塚は僕の存在に気づかない。

 

 

さらに近くへ近くへと歩を進めていると、いつの間にかカウンターの前まで来ていた。

手塚との距離は1メートルもないだろう。

 

だけど、手塚は何の反応も示さない。

 

 

 

 

 

・・・・もしかして。

 

 

 

 

「手塚?」

小さく声をかけてみるけれど、手塚は無反応。

 

 

顔を覗き込んでみて、僕の推測が間違っていなかったことに気づく。

 

 

「・・・・寝てるの?」

 

手塚はぴくりとも動かない。

 

 

 

・・・よくまあ、こんな体制で寝れるもんだ。

 

僕はあきれるというよりも感心してしまった。

もしかしたら、いつもだって真面目に授業を受けているようで実は寝ていたりするのかもしれない。

 

そんなことを思うと頬に自然と笑みが浮かぶ。

 

 

 

いつも隙を見せない手塚のこんな姿を可愛いだなんて思ってしまうこの気持ちは・・・やっぱり恋って言えるのかな?

 

 

この機会だ、と手塚を存分に見ていると手塚の手が物凄く綺麗なことに気づく。

白い肌、そして長い指・・・ごつごつしているのに、それでいてすごく綺麗。

 

 

綺麗な手。

 

 

 

そう思った瞬間僕は手塚の手と自分の手を重ねていた。

 

手塚の手は見た目よりもずっと繊細で握り締めたらつぶれてしまいそうだった。

 

 

 

こんなに、小さな手で君はみんなを支えていたの・・?

 

 

 

寝ている手塚には、疲労の色が浮かんでいる。

まったくそんな素振りも見せなかったくせに。

 

 

 

「・・手塚。少しは僕にも頼ってよ」

 

 

手塚に語りかけるけれど、手塚は未だ起きる気配を見せない。

 

「ねえ・・・せめて、全国が終わるまで。君のことを想わせて。全国が終わったら、あきらめる。約束する。だから、君も約束して。必ず全国へ連れて行くって。」

 

そう言って僕は、手塚の小指をとって自分の小指と絡めた。

 

 

 

「ゆびきり・・・げんまん。」

 

 

 

勝手な約束だった。

自分の心の中にしまっておくつもりの。

 

べつに、1日経てば忘れてしまうようなもの、その程度。

現に、僕は忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

君の体が、僕の目の前で跳ね上がって。

 

君は、何とも表現しづらい音を立てて地面に叩きつけられた。

 

 

 

僕は、体が動かなかった。

 

 

 

 

君の赤い血が、僕の足元に来て初めて、思い出したように声が出た。

 

「・・・うわぁあああああああ!!!」

 

 

 

何で?何で?

何で君がこんなことで。

 

死ぬわけない、死ぬわけないよね。

だって君は

 

 

 

僕を全国に連れていってくれなくちゃ

 

 

 

指きりだってしたんだ

ねえ 手塚

 

 

 

思わず手塚に駆け寄ると、手塚は虫の息だった。

僕は手塚の生暖かい血の海の中で、泣き叫ぶ。

 

「手塚・・・いやだ、いやだ、死なないで!」

 

 

手塚の体を揺さぶりたい気持ちでいっぱいだった、だけど。

 

そっと触れた指先に感じた感触は、あの日の手塚の手のように脆くて壊れそうだったから。

僕は、ただ泣き叫ぶこと、手塚の名前を呼ぶことしかできなかった。

 

 

 

「手塚!・・・全国に行こうよ、手塚・・・・っ!!」

 

 

 

 

「・・・・・不二・・・・」

「!?」

 

手塚が声を出した。

 

声、というよりも息に近いかもしれない。

ひゅーひゅーという息が手塚から絶え間なく漏れている。

 

 

 

「・・・・約束を・・・守れなくて・・・・・すまない」

 

手塚の右手が持ち上がって、手塚は血まみれの小指を差し出した。

 

 

 

「・・・・・!?」

 

僕がわけもわからず小指を握り締めると、手塚の腕の力が抜けた。

だらり、と腕の重みが一気に伝わるのを感じた。

 

 

 

そして、思い出した。

 

 

・・・・約束、指きり。

 

 

 

「手塚・・・・君はあのとき、気づいてたの?」

 

 

見下ろす手塚の顔は、安らかで、あの日の寝顔のようで。

僕は静かに手塚の指と自分の小指を絡めた。

 

 

 

 

「手塚・・・・あの世で、君に会わせて。ゆびきりげんまん。」

 

 

 

君が守れなかった約束。

僕が必ず守る。

だから待ってて。

 

 

 

ゆ び き り 。

 

 

 

 

 

東京都青春台某所で、青春学園3年生の生徒がひき逃げされる事件が発生しました。

また同日、青春台某川で、中学生の溺死死体が発見されました。

現在身元を確認中。

警察は川の流れから見て事故ではなく他殺もしくは自殺である可能性が高い、との推測です。

なお、両方の生徒の片小指が切り落とされていることから、この事件には何か関連性があるのではないかという方向で現在調査が進められています。

この事件については詳しい情報が入り次第お知らせします。

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

 

桐山流星さんに4410Hit記念に捧げます。

宍戸キリ番を踏んでいただいたわけですが、私が「宍戸は書き飽きた!」とわがままを言ったため「手塚」というリクエストをいただきました。

何か微妙すぎるお話でスイマセン・・・結構無理やりです(汗)

不二塚結構好きなもので・・・跡塚でもよかったんですが。

こんなものでよろしければ受け取ってやってくださいw

ではではリクありがとうございました^^

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送