LAST MAIL

 

 

 

 

その日は湿っぽかった。

じとじとした空気が教室を包んで、俺はまとまらない髪の毛をいじる。

 

 

 

ちっとも面白くない国語の授業中。

ケータイを見るとメールが1件来ていた。

 

 

(侑士から・・・・・か)

内容はおそらく・・・・予想できたけれど、どうせ暇なんだ、と片手でボタンを操作する。

 

 

【堪忍。今日昼飯一緒に食えんくなった】

 

 

 

・・・・やっぱり。

 

 

侑士が跡部のことが好きだと打ち明けてきたのは数日前。

そして、侑士はここ3日ほど前から俺とじゃなくて跡部と飯を食べることが多くなった。

 

 

 

・・もう、いちいち言ってこなくてもいいんだけど。

そう思うけれどやっぱり俺は侑士がいちいち俺のためにメールをしてくれる、侑士が俺の為に時間を割いてくれる、そのことが嬉しくてメールを断ることはしなかった。

 

 

 

【りょーかい。しっかりやれよ】

送信ボタンを押した後、どっと疲れる。

 

 

 

 

返信メールは、表面上は、『いい友達』を演じて。

内心は跡部への嫉妬に満ちていた。

 

決して表に出してはいけない感情。

この感情を表に出さなければ俺は、少なくとも侑士の『友人』として一番でいられる。

 

 

これでいいんだ・・・・・・握り締めたケータイの画面が、虚しかった。

 

 

 

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放課後の部室、宍戸と一緒に部室まで行って、他愛のない話で盛り上がりながら着替えていると侑士がドアをバタン、と開けて駆け込んできた。

 

 

 

「ジブンら!岳人知らん・・・・・っておるやん・・・」

 

走ってきたのか、侑士の息は乱れている。

侑士は俺の姿を見つけるなり、その場に座り込んだ。

 

 

 

「?どーしたんだよ、侑士。そんな慌てて」

「先行くんやったらメールくらいしてや。めっちゃ探してんで・・・」

 

 

 

「だってよー侑士は」

 

侑士は跡部と来ると思ってたし

 

 

 

言いかけて口を噤む。

 

 

 

 

一緒に部活に行こうと言い出したのは俺からだった。

ダブルスパートナーだし、クラスも違うんだから何か交流したほうがいいと思っての提案だった。

 

侑士は一回もその約束を破ったことはなかったし、遅れるときは必ずお互いにメールをした。

 

 

 

・・・・そっか。

侑士は、それを守ろうとしててくれたんだ・・・。

 

・・・・やっぱ、メールくらいしとけばよかったかな・・。

 

 

侑士を見ると、不思議そうな顔をしていた。

 

 

ごめん、と言おうとした時、部室のドアが勢いよく開いて俺等の部活の帝王が姿を現した。

「おいお前等さっさと着替えて準備しろ!」

 

 

侑士は跡部の姿を見た瞬間、表情を変えた。

その侑士を見たとき、俺は一瞬でわかった。

 

 

俺、今忘れられてた

 

 

 

今の侑士には俺の存在なんてこれっぽっちもない、跡部への気持ちでいっぱいだ。

胸にもやもやとした感情が渦巻いた。

 

 

跡部は侑士と小声で会話を交わすと、部室を出て行った。

侑士はしばらくずっと遠い目で跡部の背中を見送ると、着替えを再会した。

 

そして、しばらくすると思い出したように俺に声をかけた。

 

「岳人、さっき言いかけたこと何?」

「・・・・・・べつに」

 

ごめん、なんてもう言いたくなかった。

べつに侑士が悪いことしたわけじゃない、跡部が悪いことしたわけじゃない、でも不愉快だった。

ここで引き下がってくれればいいのに、珍しく侑士はしつこく食い下がった。

 

 

「何怒ってんねん。言ってみ?」

侑士の促すような視線が今は鬱陶しかった。

 

この視線から開放されるために、俺は侑士を傷つける言葉をわざと選んで吐いた。

 

 

「俺が、一緒に行きたくなくなったから。これからもう一緒にいかなくていーし」

 

 

 

言い残して、俺は部室を出た。

いつもの他愛も無い喧嘩なら引き止めるはずの侑士が今日は追いかけてこなかった。

たぶん、侑士は今絶句してるんだろう、と思った。

 

 

 

 

その日の俺は散々だった。

準レギュとの試合に3ゲームはとられるし、正レギュラーとはいえ2年の長太郎とのシングルスにも負けた。

 

 

「向日先輩、今日どうしたんですか?」

「あ?・・・べつにいつもとかわんねーだろ」

 

「ぴりぴりしてます、今日の向日先輩。」

長太郎が遠慮がちにでもはっきり言った。

 

こいつはお人よしに見えて、結構思ったことを素直に口に出す。

だから俺にとっても接しやすい後輩・・・かもしれない。

 

 

「ま・・・・そーかもな」

「向日先輩」

「・・・・今は、悪ぃけどほっといてくれ。明日になったら、勝手に治るからさ」

 

そんな長太郎でさえも、今の俺にとってはおせっかいにすぎなかった。

治んねーんだから仕方ねーじゃん・・このイライラ。

 

 

 

誰も居ない部室に入ってラケットを仕舞うと惨めな気持ちになる。

着替えながらケータイを見ると、緑色に発光して「新着メール1件」の表示。

 

 

送信者は、侑士だった。

さっき自分が吐いた言葉、そしてそのときの侑士の反応を考えるだけで胸が痛んだ。

 

 

【岳人。さっきはごめんな。俺最近跡部のことばっかで岳人の話とか全然聞いてへんかったし・・・・部活は絶対一緒に行こうな。】

 

 

短い文面だったけど、侑士の気持ちは伝わった。

 

ごめん、だなんてさっきのは100%俺が悪いの決定なのに。

跡部のことばっか・・・・って何正直に話してんだよ。

そんな格好悪い面、少しくらい隠せよばーか。

 

 

謝りたかった。

 

あんな、無責任な言葉を吐いたことを。

 

 

 

部室を出て、コートへと向かう。

侑士はデカいから、すぐに見つかった。

 

駆け寄ろうとしたとき、侑士の隣りの存在に気づいた。

 

 

親密そうに侑士に寄り添うのは跡部。

俺が、数日前までいたポジションなのに・・・・・・

 

侑士は変わりない笑顔で跡部と接していた。

いや、むしろ今の方が楽しそうな笑顔なのかもしれない。

 

まるで二人の周りの空間が切り取られた別世界のように俺の目には映った。

 

 

数日前、侑士が笑いかけていたのは紛れもなく俺だった。

数日前、侑士とドリンクを飲んでいたのは紛れもなく俺だった。

 

 

俺だったのに。

 

 

 

 

その光景は、あまりに簡単に崩れ去ってしまった。

所詮侑士にとって俺はダブルスパートナーとして、ただの友達として、必要にすぎないんだ。

 

本当に隣りにいてほしかったのは、笑いあいたかったのは、跡部だったんだ。

 

 

謝りたいと思っていたのに、俺の本能はあいつ等に近寄りたくないと告げている。

それは「二人を邪魔しないであげたい」なんて清らかな気持ちじゃない、二人を見ているのが辛いから。

 

 

足の方向を自然と変えて、部室へと走り戻る。

侑士が気づいて追いかけてきてくれれば、そんな淡い期待を持ったけれど侑士は跡部とのおしゃべりに夢中で俺の存在にすら気づいていなかった。

 

 

 

部室へ入ると、涙が溢れ出てきた。

自分にとって侑士は1番なのに、侑士にとって自分は2番目以下、その他大勢と同じ。

 

 

こんなに辛いなんて思ってなかった。

ただ、友達でも傍にいられればいいと思っていた。

気持ちなんて、いくらでも押し殺せると思っていた。

 

 

 

なんで・・・・なんで俺はこんなにも

 

 

いつの間に、侑士を好きになってたんだよ・・・・

 

 

 

俺は、侑士に返信メールを打ち始めた。

 

長い時間かけて打ち終えたメールは、1行、すごく短文。

だけどこの短い文を送信した時点で、俺たちの関係は崩れ去る・・・。

 

送信ボタンを押す指が震えた。

 

侑士に飴をもらったこと、映画を見に行ったこと、楽しい思い出が蘇る。

 

そんな思い出の中、跡部の顔が脳の隅をよぎった。

そして連続するように、跡部に笑いかける侑士の顔。

 

 

【送信完了しました】

 

 

瞬間、俺はボタンを押していた。

 

 

 

これでおしまい、俺たちの長い関係も全て。

何もかも、おしまい。

 

 

 

【俺、侑士が好きだ】

 

 

 

 

メールを受け取った侑士がどんな顔をしているか、俺には簡単に想像できた。

 

 

 

さよなら、侑士。

 

好きだよ、侑士。

 

 

侑士の一番に、なりたかった。

 

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

4100Hitリク、美和さんありがとうございました!

リクは、「忍跡←岳」ということでした。

忍跡は初めての試みだったのでドキドキしつつ執筆しました。

も、もう書いてる途中で何度岳人と忍足をくっつけたくなったことか・・・!

でも結構楽しく執筆することができました。

こんな感じで美和さんのリクに応えられたのか非常に不安ですが・・・・苦情などあればまた掲示板にどうぞ!!

 

 

 

 

 

 

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