く・・・・・・そっ・・・
何で・・・・・・何で俺が、俺たちがこんなことに。
ずっと一緒
「ジャッカル・・・」 「なんだ、ブン太」
相棒の名前を呼ぶとジャッカルは静かに答える かつてのジャッカルと同じ、低くよく響く声。
でもジャッカルの風貌は以前のはつらつとしたものから随分と変わり果ててしまった。
毎試合ごとに綺麗に剃っていた坊主頭からは毛が微妙に生えてなんともいえない髪型になっている。 そして、手足は骨と同じくらいに細く、目は落ち窪んでいる。
・・・まあ、俺の方も似たような状況だけど。
「俺等・・・・・・ここで死ぬのかな」 床を拭いていた雑巾を握り締めると、絞りきれなかった水分がぽたり、と床に落ちた。
「・・・・・・・・・さあな」
ジャッカルは否定はしなかった。 そしてそのまま黙々と大きなステンドグラスの窓を拭く気の遠くなるような作業を続けた。
俺たちがここへ来て・・・もう2ヶ月。
あの日、部活の帰りに、ちょっと寄り道して帰ろうと普段使わない道を使って帰っていた。
思えばそれがいけなかった。 突然見知らぬ男たちに取り囲まれてガスみたいなのを吸わされた。 ふっと意識が遠のいて・・・・・・気がついたらここにいた。
「日本のテニス界の王者、立海大附属のレギュラー」としてではなく、「言葉も通じない異国の大金持ちの家の奴隷」として。 とてつもなく大きな屋敷に俺たちは買い取られたのだった。
他にも似たような境遇のやつらが居た。
喋りかけたし、仲良くなったやつもいた。 だけど、そいつらもほとんどいなくなってしまった。
この家の主は少しかんしゃくを起こすとすぐに誰かを殺すから。
目の前で何人もの仲間が殺された。
死体の後片付けは当然のごとく、俺等の仕事。 俺たちは文句も言えずただ黙々と屍を拾うことしかできなかった。
逆らえば、俺もまた死刑。 そうなるのは目に見えていたから。
脱走しても、また死刑。 逃げ出すにも逃げ出せない状況だった。
殺される奴隷は、まったくもってランダムだった。 その日の主の気分次第で決まる。 言ってみれば、たまたま主の目が止まったやつが殺される。
俺たちは日々、主の機嫌をうかがいながら、おびえて毎日を暮らしていた。
「なあジャッカル」 「なんだ、ブン太」
「帰りてぇな」
ジャッカルは俺の言葉に一瞬作業の手を止めると、「そうだな」と言ってまた窓を拭き始めた。
立海大の話はしない、俺から言い出した約束だった。 だけど俺はこのとき無性に昔の生活が懐かしくてたまらなかった。
バカみたいに騒いでればよかったあの日々。
テニスの事だけ考えて、食べるのに精一杯なんてこと全然なくて。 赤也と二人でジャッカルをネタにして遊んで、真田に怒られて、それを蓮二がなだめて・・・・・・仁王と柳生はそれを楽しそうに見ている。
あの日々が、遠ざかっていく。 どんどん俺の記憶の中であの日々はただの「記憶」、「思い出」にすぎないものになっていく・・・
そんな取り止めのないことを考えて、口に出た言葉だった。
今の俺の最も正直な気持ち。 「帰りたい」
もう一度、あの生活に戻れるのなら何もいらないと思った。
「赤也は元気かな・・・真田も。今から帰ればまだ全国決勝くらいには間に合うかも・・・・・・」 「・・・ああ」
「たぶん今帰ったら赤也とか泣いて謝ってくるぜ!『今までごめん』って・・・・・・んで、柳とかも俺たちがいないと全国では勝てない、とか言っちゃって」 「・・・・・・ああ」
解っていた。 今話しているのが自分の空想の中の物語、夢物語にすぎないなんてことくらい。 もう、元の生活に戻れないかもしれないなんてこと解っていたけれど。
夢を抱けずにはいられなかった。
あの、幸せだった日常がもう二度と来ないなんてまだ俺は信じたくなかった。 こんな知らない国の屋敷で人生を終えるなんてこと、信じられなかった。
でも、言葉にすればするほどに前の日常はどんどん遠ざかっていくような気がした。
所詮、空虚な「思い出」。 ただの「理想」。 リアルなんて全くなかった。
「真田は・・・・・・絶対『今まで何処をほっつき歩いていたんだ!大馬鹿ども!』だとか言っちゃってさ・・・・・・でも、絶対・・・っ俺等いないと立海は勝てねえから・・・っすぐに試合・・・し・・・・・・てさっ・・・」
知らぬ間に涙が出ていた。 テニス部のみんなの顔、テニスをしていた日常、それがあまりに眩しすぎて、暖かすぎて。
「・・・・・・んでっ・・・全国優勝し・・・てっ・・・・・・幸村も帰ってきてて・・・っ・・・」
「ブン太」 「・・・っく・・・帰りてぇよぉ・・・・・・!!!!」
ジャッカルの優しい声が嬉しくて、俺はジャッカルに泣きついた。
「大丈夫だ。必ず帰れる。心配すんな」 ジャッカルが俺の背中をぽんぽんと叩いてなだめてくれる。
余りにも優しい声、あまりにも優しい手。 ジャッカルも置かれた状況は同じだというのに。
「ほら、ここは俺がやっとくから。外で顔洗って来い。」
ジャッカルは俺の肩をぽん、とたたくとドアを開けてくれた。
外気が俺の濡れた頬を触る。 外の水道の隣りに門はあるけれど、常に見張りが二人いる。
俺は、じろりと二人に睨まれながらも顔を洗った。
冷たい水がパシャパシャと顔に触れると、気分が幾分マシになった気がした。
そんなとき
ガシャーン!!! ガシャーン!!!!
何度も陶器の割れるような音がした。 慌てて見張りの二人が屋敷の中へと入っていく。
俺は、その隙に窓のところへ回りこんだ。 中の光景を見て、俺は息を呑んだ。
「・・・!ジャッカル!!」
屋敷の中ではジャッカルが、屋敷中の骨董品を次から次へと壊していた。 だが、それも二人の見張り、そして屋敷内にいたやつ等によって取り押さえられ、ジャッカルは今殴られ、蹴られ、酷い状態だった。
窓を通しても、かすかに声が聞こえる。
「・・・前は何をしているんだ!」 「うるせぇ!俺はもううんざりなんだよ!!!」
ジャッカルは、殴られるということがわかっているのに、ずっと抵抗していた。 その姿はあまりに痛々しくて、俺はその場を動くことができなかった。 ジャッカルの姿に、目が釘付けだった。
そんなとき。
一瞬。 本当に一瞬だったけれど。
ジャッカルと目があった。
「!」
こんなとき、長年のペアでのコンビネーションが憎い。 アイコンタクトで全てを理解できてしまう自分に嫌気がさす。
ジャッカルの目は、『逃げろ』と告げていた。
俺が時間を稼ぐから、そう言わんばかりにますますジャッカルは抵抗して。 もう流血沙汰になっていた。
ジャッカルはきっと・・・・・・死刑になる。
俺は、どうすればいい?
逃げる・・・って?
元の生活に・・・・・・戻れるって?
また、皆に会える ふざけたり笑いあったり
ジャッカルは・・・・・・逃げろ、って言った 俺が元の生活に戻れるように・・・
それが、ジャッカルの望み?
「ジャッカル。・・・俺。お前の望み、叶えてやる。」
---------------------------------------------
ガシャーン!
窓が、割れる。
その音にほとんどの見張り、奴隷は反応して俺の方を見た。 俺はゆっくりとジャッカルに近づく。
ジャッカルは、うずくまって痛みに耐えていた。 その顔はもう青痣だらけで、血もいっぱい出ていた。
ジャッカルは、俺の姿を見ると目を見開いた
「・・・・・・ブン太!?馬鹿!お前・・・ 「ジャッカル。俺天才だから、お前の気持ち全部解っちゃった。・・・ほんと、俺がいないと駄目だからな、ジャッカルは!」
「・・・・・・馬鹿やろ・・・俺がどれだけの思いで・・・!」 「わかってる。わかってるからこそ、来た。俺も、同じ気持ち。」
それだけの会話をしたところで、奴隷たちは思い出したように俺とジャッカルを取り押さえた。
これから行く場所はわかっている。
「後悔しても、知らねえぞ」 「しねえよ、バーカ!」
俺たちが向かう場所は、全国大会じゃなくて・・・死刑台になっちゃったけど。
でも。
「俺たち最強ダブルスだろぃ?」
そう、俺たちは負けない。 絶対に、二人なら乗り越えられる。
辛いことでも、悲しいことでも。
だから、俺たちは。
ずっと、何処までも、一緒。
〜END〜
パーさんに捧げる2300Hitリク作品! ブンジャ奴隷設定、という素晴らしいリクエストでした。 えーと、シチュ負けしてます(汗) バッドエンドなのにハッピーエンドというか、暖かい気持ちで終われればいいなあと思って書きました。 ブンジャ本当大好きです。この愛が皆さんに伝わればいいなぁと。 奴隷設定というのは初の試みですので、色々と矛盾していたりするかもしれませんが大目にみてやってくださいませ。 リクありがとうございました!
|
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||