ある日の放課後、ふいに岳人が切り出した。
「ゆーし。俺さ・・・」
天邪鬼
”好きな子が出来た”
べらべらと長い間喋った岳人の言葉を要約するとつまりはそういうことやった。
相手は違うクラスの子。
ごく普通の、特筆することがあるとすれば、人より少々お喋りな女子。 それくらいの印象しか俺は持ってへん。
頬を染めてその子の話をする岳人を見て、俺は胸がチクりと痛んだ。 何でか?って? そんなことは分かってる。 俺が岳人に好意を…といっても友達としてじゃない好意を抱いている、つまりは岳人が好きやから。
引き止めたい。 そして今すぐに、自分の思いをぶちまけたい。
せやけど俺の口から出た言葉は。
「そおか。頑張りや、俺も協力するし」 「・・・まじ?」
「当たり前やん。他ならぬ岳人のことやで?」 「・・・・・・まーそれはそうだけどよ」
「購買のパン1週間でええで」 「はっ!?協力するんじゃなかったのかよ!」 「人にものを頼むときはそれなりの報酬っちゅーもんがなあ・・・・・・親しき仲にも礼儀あり、ってやつや」 「くそくそっゆーし!」
「それにしても…岳人チャンとこんな話する日が来ると思ってへんかったわーお母さん何か悲しいわー」 「・・・・・・あははっ、何だよソレ!」
ふざけあって、笑いあって帰る放課後。 いつもの帰り道と、ソレは表面上何ら違いない。
でも、俺の心は、笑う度にズキッと痛む。 俺は岳人の顔を見ることができん。
岳人は今俺の表情に気づいてるやろか? 俺は今、辛そうな顔隠せてるやろか? 岳人の期待に、応えられてるやろうか?
俺の気持ちを今ここで岳人に伝えたところで、岳人が辛い思いをするんは目に見えてた。 自分の気持ちを伝えたい。
せやけど、岳人の笑顔を奪いたいわけじゃない。
隣りで笑う岳人の横顔は俺の好きないつもの岳人。 一方俺の頭の隅にちらついたのは本気で悲しんでいるときの岳人の泣き顔。
両者を天秤にかけると俺の中での答えは簡単に決まった。
ポケットから携帯を出してアドレス帳を開く。 慣れた手つきで打ったメールのあて先は、クラスの女子。
『Sub:(non title) いきなりメール堪忍。 メアド教えてほしい子がいるんやけど・・・』
「おいゆーし!さっきから話聞いてんのかよ!ボーッとしやがって!!」 「堪忍。・・・せやけどちゃんと話は聞いてたで」
「あ゛?!嘘つけ!今だってメール打ってただろ!じゃあ俺が話した内容言ってみそ?」 「新発売の納豆の話やろ。今度は梅の香りつき」
言いながら、バイブが震える携帯を開く。 さすが女子、ものの数分でメールを返してくれる。
俺はお礼の短いメールを打ち送信した。
「・・・ま、まあ、わかってるならいーんだよ。・・・・・・って、またケータイ触ってるし!!ゆーしのバカ!俺よりケータイの方が大事なのかよ」 「まあそうカリカリしなや。これ見てみ」
言って、俺はふくれっ面をした岳人に携帯の画面を突きつける。
「何だよコレ。メアド?誰の・・・」 「協力するって言ったやろ」
岳人の瞳が大きく見開く。 そして、岳人は満面の笑みをするはずやった。
せやけど俺の見た岳人の顔は何故か悲しそう…に見えた。 が、それも一瞬の事。
岳人はすぐに俺の大好きな笑みを浮かべた。
「あ・・・そっか・・・さ、さすがゆーし!!スゲーじゃん!!ありがとなっ」
「ああ、ええよ。頑張りや」
俺は精一杯の笑顔で微笑むけど。
心の中は、泣いていた。
数日後の話。 岳人はその子と付き合うことになった。
今日は岳人と映画を見に行く。 俺は岳人のノロケ話に付き合う身やから、もちろんジャンルは俺の好きな『ラブロマンス映画』。
今でも気持ちを伝えたらどうなるやろ・・・と想像することはあるけど、岳人の笑顔を見たら結局それは叶わない。 今日もきっと俺は”いい友人”を演じて、岳人の背中を押すんやろう。
アイツの前では、結局俺は天邪鬼。
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あんなひねくれたこと、しなけりゃよかったんだ。
ある日の放課後、俺は滝と部室でだべっていた。
まあ俺と滝はいわゆる『サラサラヘアー同盟』ってやつだ。 アイツとは髪の話をきっかけに、いろんなことを話すようになっていて、今では親友だ。と俺は思っている。
「なー滝ー・・・」 「何?岳人。”また”悩み事?」
滝はクスッと笑う。 俺の悩みを滝が聞いてくれることなんて日常茶飯事。 大抵髪がまとまらねー、とか新商品の納豆を買うかどうか迷ってるー、とかそういう小さな話。
だけど、今日は違う。 滝はにやにやと笑って俺が話を切り出すのを待っている。
「俺がさ、ゆーしの事好きだって知ってる?」 「?・・・知ってるよ、もちろん」
「えっ・・・まじ?」 「うん」
「あー、でも好きってその、友達としてのとかじゃなくて・・・」 「知ってるよ。岳人は忍足と恋人になりたい、ってことでしょ?」
「こ、こぉいびと!?って、そ、そういうわけじゃないけど・・・・・・あー、でもそういうことになるのか・・・?!」
「まあまあ、・・・・・・で?岳人はどうしたいわけ?気持ちを伝えたい?」 「あ゛〜・・・俺は・・・その・・・・・・ゆーしの気持ちが知りたい。」 「そっか」 「でさ、滝にお願いがあるんだけど!!」 「忍足の気持ちを聞いてくれ、っていうのならお断りだよ」
「・・・。滝のケチ。」 「意地悪してるわけじゃないんだ。」 「じゃあ何で!」
「忍足に俺が聞いたところで、きっと本当の思いなんて聞けないよ」 「でも俺が聞いたところで本当の気持ちなんて聞けねーぜ」 「・・・そうかもね。」
「あ゛ーどうすりゃいいんだよ!」 「一つね、方法があるよ。」 「マジ?!それって何だよ!?」
「一つ確認。岳人は、自分から気持ちを伝える気はないんだよね?」 「・・・・・・」
侑士の気持ちを知らずに、自分から気持ちを打ち明ける勇気なんて俺にはなかった。 もし断られたらぎこちなくなって、侑士とダブルスが組めなくなってしまうかもしれない…
俺が黙っていると滝がクスッと笑った。
「大丈夫。きっと上手くいくよ。」 「何だよその自信。大体、その方法って何なんだよ、言ってみそ!」 「駆け引きだよ、今から言うこと、ちゃんと守って実行してね。じゃないと台無しだから・・・
***
滝から言われた方法を実行するのは気が引けた。 だけど滝のあまりの自信たっぷりな態度に背中を押され、俺はそれを実行しようとしていた。
侑士の気持ちを、知りたかった。
「好きな子ができた」 そう、長い時間をかけて打ち明けたとき、侑士の表情が翳った気がした。 俺はこんな侑士の表情を見るのが好きなわけじゃない、だけど、滝が言ってた作戦を成功させるためには一度侑士を傷つけないといけなかった。 ここまでは、作戦通りだったんだ・・・
だけど、侑士が笑って言った一言で、事態は急変した。 「そおか。頑張りや、俺も協力するし」
俺は困惑した。 滝の作戦通りにいけば、『忍足はここで自分の気持ちを伝えてくれるよ』ということだったのに。
事態はそれから、どんどんあらぬ方向に進んで行ってしまった。
訂正しなければ、好きな子が出来ただなんて嘘だ、と言わないと・・・ そう思うのに、俺の口から出るのはどうでもいい話ばかり。
一人でべらべら喋って、バカみたいに笑ってた。 頭がぐるぐる回っているような、地に足が着いていないような気分だった。
侑士は所詮俺のことなんて友達としてしか見てなかったんだ・・・ 応援してくれなんて望んでないのに。 そんな友情いらねぇのに。
・・・・・・やっぱり、自分の気持ちは自分で伝えないといけないんだな・・・
もう関係が壊れてしまってもいい。 ちゃんと伝えよう。
そう決意して侑士を見ると、侑士は一生懸命携帯を触っていた。 さっきからずっと。
俺はそれを見て無性に腹が立って侑士につっかかった。
せっかく人が一大決心したときに、携帯なんか触りやがって!
でも侑士がつきつけた携帯画面。 侑士の口から出た言葉。 そして、優しい笑顔。
「協力するって言ったやろ」
いろんな気持ちが入り混じって、涙が出そうになった。
そうやってお前が笑うから。
俺は、また何も言えずに。
俺がこの笑顔に弱いの、侑士、知っててやってんじゃね?
気持ちなんて、伝えられるはずがない。 この笑顔を壊せるわけがない。
侑士が望んでること。 俺に出来ること。
それを考えると、俺のやることは決まってた。
俺は、今できる精一杯の笑顔を作った。
「あ・・・そっか・・・さ、さすがゆーし!!スゲーじゃん!!ありがとなっ」 「ああ、ええよ。頑張りや」 侑士はまた、微笑んだ。
侑士は今俺がどれだけ悲しいかわかる? 俺、ちゃんと笑顔作れてる?
「あ〜・・・それにしても、今年花粉やべーよ」 俺は、知らずに出ていた涙を拭うため、目を擦った。
数日後の話。 俺はその子と付き合うことになった。
今日は侑士と映画を見に行く。 俺は侑士の笑顔を見るためにしっかり自分の幸せアピールをしなければならない。 侑士が望んでいるのは俺の幸せだから。
今でも、本当の気持ちを伝えたらどうなるのだろう、と考えることはある。
でも、
『岳人と恋愛話ができるなんて夢みたいやわ〜もちろん、これから映画はジャンルはラブロマンスやで?』
そう、楽しそうに話す侑士を思い浮かべると結局それは叶わない。 今日もきっと俺は侑士の前で、”手のかかる友人”を演じることになるんだろう。
アイツの前じゃ、結局俺は天邪鬼。
〜END〜
22222ヒット、ありがとうございます!! ルナさんのリクエストは『忍岳で切なめ』ということでしたので悲恋にしてみました。 忍岳、楽しく書かせて頂きましたが・・・どことなく以前に書いた”すれ違い”と展開が似てきてしまいましたorz が、その辺りは同一人物の作品ということで目をつぶっていただければな、と思います。 ではでは、キリリクしてくださったルナさん、そしてここまで読んでくださった全ての方に本当にありがとうございました!
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