お前を手に入れるためやったら、何やってする。
お前が進んで俺のトコに来てくれへんのやったら・・・・・・他の居場所をなくすまでや。
最後は俺のトコしか逃げ場がなくなるように。
お前は、俺だけを見てればええ。 たとえその瞳が憎しみに満ちた瞳やとしても、お前の瞳に俺が少しでも映るんやったら構わへん。
お前は、俺だけのことを考えてればええ。 恐怖で、頭から離れんようになるくらい、俺のことを頭に焼き付けてほしい・・・
それは歪んだ愛なんかもしれへんけど、何をしてでも手に入れたいモン、初めて見つけてん・・・
せやから、容赦は、せんで?
狂愛歌
岳人に告白したあの日、俺は「ごめん」と一言で断られた。 岳人なりに考えた上での「ごめん」やてことは百も承知やった。
せやけど。
ごめんなんていらへん。
俺が欲しいのは、お前自身。
俺たちは、元の関係に戻ろうとした。
せやけど、俺はもうそんなことで、友達なんかで我慢できひんくらい、お前に依存しとったんや…
岳人の瞳に、俺以外のやつが映るのが憎い。 岳人が他の奴と話してるのが、勘に触る。
どうやったら、岳人は俺のことだけを見てくれる?
考えると、答えは一つやった。
『岳人の居場所をなくすこと』
そしたら、嫌でも岳人は俺にすがり付いてくるはずや。
俺は、そのとき狂ってたんや。
*****
「おい、そこどけよ」 「邪魔なんだけど、出てけよ」 「ってゆーか向日、お前本当にレギュラーなわけ?全然見えねー!」
容赦なく浴びせられる罵倒、殴る蹴るの暴行。 歯を食いしばりすぎて唇から出た血液の味。
涙がじわりと滲むのを必死に堪える。 涙を出せば、あいつ等はエスカレートするだけ。
最初は、抵抗した。 否定もした。
だけど、そんなこと・・・・・・みんな、無駄だった。
どうして、どうしてこんなことに。
見上げた先には氷のように冷たい目をしたかつてのダブルスパートナー。 もう、名前を口にするのも嫌になる。
俺はアイツを睨みつけると、アイツは嬉しそうに笑った。
くそっ・・・・・・なんで。
何でアイツはこんなことを。
狂ってる。
*****
わざと自分で痣つくってファンクラブのやつらに「岳人にやられた」って言ったらすぐにあいつ等は行動を起こした。 クラスメイト、同じ部活の友達・・・・・・いろんなやつにありもしない岳人の悪い噂を流し始めた。
そして、次第に岳人ファンクラブに入ってた奴等までもが岳人を無視。 当然、ファンクラブは廃止。
人って冷たいもんや・・・とつくづく思わされる。
・・・まあでも一部、跡部は信じてへんみたいやったけど。
アイツに信じてもらおうなんて初めから思ってへん。
元からアイツは人の事に関心がない。 せやから、俺にとって全く支障はない・・・
あとは日吉・・・か。 まあアイツは俺よりも岳人を信じるやろうけど、絶対的な岳人の味方ってわけでもない。 ただの傍観者や。
樺地、ジローも傍観者。
せやけど、傍観も立派ないじめになるんやで?
鳳なんかはクラスのやつらに説得されて岳人に冷たい視線を向けるようになった。 宍戸もそうなるのも時間の問題やろう。
岳人に、味方はいんようになった。
わかったやろ、岳人??
結局お前は、俺のとこに来るしかないんや 他のやつにすがろう思うてももうあかん
絆なんて、ちっぽけなもんや 「友情」なんてこの上なく脆い
*****
最早、俺に対する嫌がらせはクラスだけに留まらず部活にまでも広まっていた。
ふいに頭に鈍い衝撃を感じる。 痛さに思わず手をやるとべっとりとした血の感触。
振り返ると、笑いながら去っていく準レギュラーの名前も知らない二人組。 手にはラケットを持っていた。
傷は大したことなさそうだったけど、血液は物凄い量だった。 血がぽたぽたとジャージにしみこむ。
コートにも血が落ちそうになったけど、俺は必死でそれを阻止した。
俺はこのとき、自分の怪我よりもあとでコートを汚した、と部員に責められることのほうが怖かった。
(確か、部室のロッカーに包帯があったはず・・・)
血が出ることなんて日常茶飯事になっていたから、せめて親に心配されないように毎日俺は救急セットを持ち歩くようになっていた。
頭を抱えて部室に入った瞬間、俺は「来なければよかった」と思った。 そこに居たのは、鳳、宍戸、そして『アイツ』。
もっとも今会いたくないやつらだ・・・ 暴力さえ振るわないものの、こいつらの言葉は鋭い刺のように俺の胸に突き刺さる。
俺はとりあえず早くこの場を立ち去りたい、とロッカーを開け、包帯を取り出した。
無音の部室に、俺が包帯を取り出す音のみが聞こえた。
「あーあ、何でやめねーんだろうな」
宍戸が呟いた声に、一瞬俺の手が止まる。
来た
俺にとって一番辛い瞬間
「ほんとですよね、宍戸さん。」 同意する長太郎。
『アイツ』は・・・黙ったまま。
「正直言うと関東大会だってあの人のせいで負けたようなものですよね」
「!」
「おい、長太郎、それは
宍戸の言葉を聞き終える前に、俺は部室を飛び出した。
胸が痛かった。
あの大会は、あの試合は、確かに俺のせいで負けた。
俺の体力不足、俺の実力がなかったから・・・氷帝は全国へ行けなかった。 下級生の樺地や鳳が健闘したというのに、急造コンビに負けるというあまりにも無様な姿。
みんなの夢を潰したのは、俺だ・・・。
めちゃくちゃに走ると、屋上に来ていた。
ここは、俺の少しの安らぎの場所。 空に、一番近いから。
空は、全てを忘れさせてくれる 悩みも、痛みも、記憶も・・・
見上げた空はどこまでも青く。
俺は、飛べると思った
*****
いつも岳人は落ち込んだら屋上に行くって決まってた
岳人は完全に居場所を失って、プライドも無くしたはずや
今度こそ、俺のモンにしたる
そう思うて、屋上への階段を駆け上がった。
ドアは、予想通り半分開いとった。
ガチャ
そこに広がる光景は、とても美しかった。
どこまでも広がる青に、綺麗な「赤」の人形が吸い込まれていく。
・・・・・・いや、人形やない
「岳人!!!」
ありったけで叫んだ声は、アイツには届かへんかった。
アイツは…空を飛んでるように見えた。
思わずその場に座り込む。
岳人が・・・・・・死 ん だ ?
何で・・・
何でやねん
もう少しやった・・・
もう少しで手に入るはずやったのに
何でお前はまた・・・・・・
俺の手の届かんとこへ行ってしまうねん?
何で…
俺は、こんなにも・・・・・・
お前のことを思ってんのに・・・!!!!!
愛してんのに・・・・・・っ!!!!
「岳人ーーーーーーっっっ!!!!」
俺の悲痛の叫びは、どこまでも青い空へ吸い込まれていった
歪んだ愛は、所詮歪んだ愛
俺の紡いだ狂った愛の歌は・・・アイツには届かんかった。
〜END〜
2100Hitで暁さんに捧げます。 「忍足虐め側」というリクでした。 かなり楽しく書かせていただいたのですが、最後はやっぱり岳人への愛故忍足が可哀相な感じになってしまいました こういう歪んだ愛、私的にはとても大好きなんですが今回は報われないということにしました。 ではでは、リクエストありがとうございました!
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