お前の気持ちは、痛いほどにわかった。

 

あのとき、肩を震わせて泣いていたお前の気持ちは、痛いほど俺に伝わってきた。

 

 

 

 

そして、それは、俺の所為。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、俺は斬髪してまで榊監督に頼み込みレギュラー復帰を果たした。

 

でもそれは同時に、日吉を補欠に追いやる行為だった。

 

 

 

 

監督から、「代わりに日吉が入る」という言葉を聞いたときは俺は頭がおかしくなりそうだった。

 

 

でも、日吉はきっと嬉しかったに違いない。

あれほど望んでいた、レギュラーなのだから。

 

 

 

 

 

俺は日吉のことを認めていた。

シングルスでは長太郎にも勝っているし、日吉が急成長しているから追い抜かれないように、とプレッシャーも感じていた。

 

 

でも、俺はあのときそんな日吉のことなど少しも頭に入れずに、ただ、自分勝手な気持ちでレギュラーに戻りたい、と頼み込んだ。

自分が幸せならそれでいい、そんな気持ちで。

 

 

 

日吉は補欠という座に、後戻り。

 

一度喜ばせておいて、突き落とす。

その衝撃は大きい。

 

 

 

 

そして、俺はその日の帰りに見てしまった。

校舎の影で、涙を堪えようとしている日吉を。

 

 

声をかける資格なんてなかったのかもしれない、でも声をかけずにはいられなかった。

 

 

 

 

「・・・・・・日吉」

「・・・宍戸先輩」

 

日吉は振り返ると目に溜まっていた涙をジャージの裾で拭った

 

 

 

 

「あ・・・・・・・・・あのよ・・・」

「先輩。俺、先輩に伝えたいことがあるんですけど」

 

「・・・・・・・・・?何だ?」

 

 

 

「先輩。好きです。付き合ってください。」

 

 

 

 

俺には、選択肢などなかった。

 

 

 

*****

 

 

 

「ああ・・・・・・・・・わかった」

「ありがとうございます」

 

そう言いつつ、俺は心の中でほくそ笑んだ。

 

 

 

あの人の心を、ぐしゃぐしゃにしてやる。

 

ここから始まった、俺の下克上。

 

 

 

 

 

宍戸先輩が密かに鳳のことを好いているというのは解っていた。

そして鳳もまた宍戸先輩のことを好いているということを俺は知っていた。

 

先輩が、あの状況で俺の告白を断るはずがないということも知っていた。

 

 

 

 

知っていて俺はそれを利用した。

 

 

 

 

宍戸先輩に声をかけられて、そのときに思いついたことだったけれど、案外この作戦は上手くいくかもしれない、と思った。

 

 

 

俺の一度は叶ったレギュラーを奪い取ったあの人から。

 

幸せを奪い取ってやる。

 

 

 

 

 

俺は宍戸先輩に数々の命令とも取れる「お願い」をした。

宍戸先輩が俺の「お願い」を断ることができないことを承知でのこと。

 

 

 

部活中、休憩中は必ず一緒にいる。

帰りは一緒に帰る。

 

など、宍戸先輩とすごす時間を増やす命令ばかりを言った。

 

 

 

 

楽しかった。

 

 

 

俺と宍戸先輩が話しているとき、鳳の様子をちらりと伺う宍戸先輩。

そして、同じく宍戸先輩が気になって仕方ない様子の鳳。

 

 

 

あいつ等の気持ちが通じ合っているのは明らかなのに、そこに立ちはだかる障害物は、俺。

 

嬉しくて仕方がなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

だけど、俺の計算には一つだけ誤算があった。

 

 

 

 

「俺が宍戸先輩を好きになってしまう」という誤算。

 

 

 

俺がそんな気持ちに気づいたのは、関東大会初戦の日。

 

D2が負け、D1の宍戸先輩と鳳の試合をベンチで見ていた日。

 

 

 

宍戸先輩を、遠くに感じた。

 

自分はベンチで、宍戸先輩はコートにいるから・・・・・・そんなことじゃなくて、存在が、心が遠い。

 

 

 

俺はただ宍戸先輩を縛り付けていたに過ぎなかった。

肝心なあの人の心は、いつでも鳳へ向いていた。

 

 

無性に鳳に対して腹が立った。

 

どうして、あそこにいるのが俺じゃないんだ?

俺たちは、紛れもなく今は付き合っているのに

 

俺はそのとき、鳳のポジションを明らかに「羨ましい」と、感じていた。

 

 

 

そして、俺は自分の誤算に気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日を境に、俺は宍戸先輩のつらそうな顔を見ても素直に喜べなくなった。

 

何故、俺は好きな先輩を苦しませている?

 

 

 

俺が先輩を好きだと解った以上、俺と先輩が付き合い続ける理由はない。

本当に先輩のことを思うなら、今すぐ別れて鳳の元へ宍戸先輩を返すべきなんだ。

 

そう思うのに、俺は宍戸先輩を手放せないで居た。

 

 

 

 

先輩はいつの間にか俺の生活の一部になっていて、俺は宍戸先輩を縛り付ける行為をやめることができなかったんだ。

宍戸先輩を思いやる気持ちよりも、自分の物欲を満たしたい気持ちの方が大きかったんだ。

 

 

 

「・・・・・・吉。日吉!」

「・・・!すいません、宍戸先輩。帰りましょうか」

 

「ああ・・・」

 

 

 

宍戸先輩はちらりと鳳に視線を送ると、つらそうに顔を歪めた。

ちくり、と胸が痛む。

 

 

どうして俺はこの人にこんな顔しかさせられないのだろう

もっと俺は 

この人に笑って欲しいのに

 

 

 

 

「何か、最近お前上の空だな」

「・・・・・・・・・そんなことないですよ」

 

「そうか?俺に話せることだったら何でも言えよ」

 

 

そう言って、頼もしげに笑う宍戸先輩は本当に格好よくて。

こんな俺にも笑いかけてくれる先輩の優しさが、今の俺には辛い。

 

 

 

一番辛いのは、先輩。

 

 

 

そうですよね?

 

 

 

 

 

 

「宍戸先輩」

「?なんだ?」

 

 

 

 

「別れましょう」

 

 

 

 

 

「ハァ?!何言ってんだよ急に・・・」

「これは俺の願いです」

 

 

 

 

もう、貴方に、辛い顔をさせたくない

 

だから、早く・・・・・・俺が涙を流す前に立ち去ってください

 

 

 

 

 

「もういいんです。俺、もううんざりだ。」

 

「・・・・・・・・・どういうことだ、納得いかねぇ。俺は、ちゃんとした理由を聞くまで納得しねぇ。」

 

 

 

 

宍戸先輩は意外にも食い下がってくる。

貴方の罪の意識はそれほどまでに重いわけですか?

 

 

 

言葉にしてほしいなら、ちゃんと言葉にします

 

それで貴方が納得して別れられるのなら

罪の意識から解き放たれるのなら

 

 

 

「俺は宍戸先輩を好きじゃなくなったんです。・・・これでいいですか?」

「・・・・・・」

 

 

宍戸先輩はしばらくの沈黙の後、無言でうなずいた。

 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

言って、踵を返す。

 

 

 

俺はもう子供じゃない、力づくで欲しいものを手に入れる、そんなやり方はもう終り。

 

 

 

俺は、貴方を手放します

 

さよなら、宍戸先輩

 

 

 

俺の貴方に対する気持ちは歪んでいたのかもしれないけれど、確かに本物でした

 

 

 

*****

 

 

 

「・・・・・・・・・見てたのか、長太郎」

 

「・・・はい」

 

 

 

物陰にしっかり隠れていたつもりがいつの間にか身を乗り出していたらしい。

涙目になった宍戸さんに突如名前を呼ばれびくっと体が震える。

 

 

「もう涙を拭いてください、宍戸さん。」

「悪ぃ・・・・・・・・・ただ、ショックだったからな・・・やっぱ・・・・・・キツいわ・・・」

 

 

宍戸先輩から、相談は受けていた。

 

 

日吉を好きになった、と。

そして日吉が自分に告白してきた、と。

 

 

 

騙されるかもしれない、利用されるかもしれないと解っていたけれど告白をOKしたと。

 

宍戸さんの痛いほどの日吉への気持ちを知っていた俺は、先ほどの光景を涙無しで見ることはできなかった。

 

 

 

いつも、今日こそはふられるんじゃないか、という不安に襲われていた宍戸さん。

 

いつも日吉と帰る前、俺に不安気な視線を送っていた宍戸さん。

 

 

 

 

どうして

 

 

これほどに相手を思っているのに

 

 

 

伝わらないんだろう

 

 

 

 

俺は泣きつづける宍戸さんを見ながら、そう思った

 

 

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

1600Hitで桐山流星に捧げます。

リクは、宍日悲恋ということでした。

最初は宍戸は日吉のこと好きっていう設定にするつもりはありませんでした。

でも、何か・・・・・・日吉が報われない!!!

ちなみに長太郎に宍戸に対するラブはありません。

この場合は単なる「信頼関係」っていうことで。

チョタが報われないのも嫌なので、チョタはこの二人の関係を見守る傍観者という設定です。

ではではリクありがとうございましたvv

 

 

 

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