れ違い 前編

 

 

〜SIDE 鳳〜

 

俺のダブルスパートナー、宍戸先輩。

あの人に特別な感情を抱くようになったのは、いつからだっただろうか・・・・・・

 

 

 

「ゲーム!鳳・宍戸ペア!6−2!ウォンバイ鳳・宍戸!」

いつもの練習試合。

準レギュラーとのダブルスに勝利する。

 

 

フェンスの外からは黄色い歓声が耐えない。

 

「さすが鳳くんと宍戸くん!息ぴったり!!」

なんて声も聞こえてくる。

 

 

・・・・・・・・・息ぴったり?

 

 

 

ああ、そうだった、少なくとも昔は。

だけど、今は違うんだ・・・

 

 

 

 

 

「宍戸さん、お疲れ様です」

「あ、ああ・・・」

 

最近宍戸さんの返事の歯切れは悪い。

それに最近目に見えて俺を避けている。

 

俺にとってそれは都合のいいことでもあり、悲しいことでもあった。

 

 

 

 

初めはただの先輩だったんだ。

 

だが、いつからだろう・・・・・・

きっと、宍戸さんに特訓を頼まれたあたりから、俺は宍戸さんが気になって仕方なくなった。

 

それは俺が宍戸さんを尊敬しているからだ、と言い聞かせていたけれど、日を増すごとに宍戸さんへの思いは募るばかりだった。

 

 

 

そして俺は、できれば認めたくなかった答えを認めることにした。

俺は宍戸さんに『恋』をしているという答えを。

 

 

だけど認めたところで別に告白する気もなかった。

 

宍戸さんはきっと迷惑に思うだろうし、第一今の関係を壊したくなかった。

 

 

 

だけど、きっと認めた時点で終わっていたんだ。

俺と宍戸さんのこの信頼関係は。

 

 

 

 

 

宍戸さんは、俺の気持ちに気づいてしまったみたいだった。

 

 

それから、今のように俺を避け始めた。

お互いがお互いを変に意識しあう日々が気づいた。

 

 

 

 

そしてそれはダブルスにも影響しないわけがなくて。

俺と宍戸さんのダブルスは日を追うごとにぎこちないダブルスになっていた。

 

 

 

そして今日も準レギュラーに2ゲームも取られてしまう失態をさらした。

 

 

それを跡部部長が黙ってみている訳がない。

 

試合が終わってすぐに俺たちは跡部部長に呼び出された。

 

 

 

 

「言いたい事はわかっているな」

 

跡部部長の鋭いブルーの瞳が俺と宍戸さんを睨みつける。

隣りの宍戸さんをちらりと盗み見ると、帽子を取って俯いていた。

 

 

「・・・・・・お前達の問題だ。お前達で解決して答えが出たら報告しに来い。いいな」

 

「はい」

「ああ・・・わかった」

 

 

きっと、相談したって解決する問題じゃないなんてことはわかっていた。

もう元の関係に戻れないことは明らかであって、俺に残された答えはただ一つ、ペアを解散することだった。

 

 

 

 

 

「長太郎」

 

『長太郎』、この人の口から俺の名前が出るのは何日ぶりだろう。

やけに懐かしい響きに涙が出そうになる。

 

 

 

「今日、放課後部室に残れ」

宍戸さんはそれだけぶっきらぼうに言うとコートに戻っていった。

 

 

 

その背中を見つめながら、どうして俺はこの人を好きになってしまったんだろう、と思った。

 

 

何で、普通の女の子ではなく、この男の人を。

 

 

 

ずっと一緒に進んできた宍戸さんが、あんなに遠い。

 

さっきの試合が宍戸さんとの最後のダブルスだったんだ、と思うと悲しくて仕方がなかった。

 

 

 

 

今日の放課後、俺と宍戸さんの関係は断ち切られる。

他でもない、俺と宍戸さんの手によって。

 

 

そしてこの気持ちともお別れになる。

 

 

 

***************

放課後、部室のドアを開けるともう宍戸さんはそこに居た。

妙な空気が場に漂う。

 

 

「よう」

「こんにちは」

 

 

挨拶も何だかぎこちない。

 

 

それからしばらくの沈黙が流れた。

 

 

宍戸さんはどう切り出そうか迷っているみたいだった。

そんな宍戸さんが無性に愛しかった。

 

 

いつでも俺の気持ちを考えて、傷つけまいと一生懸命考えてくれる。

でも、もう俺はそんな宍戸さんの優しさに甘えるわけにはいかなかった。

 

 

 

 

「ペアを、解消するんですよね」

 

 

そう切り出すと宍戸さんは悩んだ顔を上げて驚いた表情をした。

そして、困ったような顔をした。

 

 

 

「気づいてたのか?」

 

 

俺は無言でうなずいた。

 

宍戸さんの答えなんて、ずっと前から気づいてた。

宍戸さんが俺を避けて精一杯の『応えられない』という気持ちを示していたことにも、気づいていた。

 

だけど気づいていないフリをして無理やりペアを続けていただけのこと。

 

 

 

「そうか…」

 

宍戸さんは自嘲気味に笑った。

その笑顔にほんの少し涙が混じっていたような気がしたのは俺の気のせいだろうか。

 

 

 

 

そしてまた、沈黙。

 

 

宍戸さんは眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情をしている。

今宍戸さんは何を考えているんだろうか・・・

 

俺はぼんやりそんなことを思いながら、きっとこの時間も長くは続かないんだろう、と思った。

 

 

 

宍戸さんが苦しむ顔をこれ以上俺は見たくなかったから。

自分から、この時間を断ち切ろう、と思った。

 

 

 

 

「宍戸さん。」

声をかけると宍戸さんはうつむく顔をほんの少しあげた。

 

 

「俺、帰ります」

 

言って、部室のドアへ向かう。

ドアまでの距離を酷く長く感じた。

 

 

 

 

「長太郎」

ドアノブに手をかけた瞬間、宍戸さんが俺を呼び止めた。

 

 

 

「最後に・・・・・・一つ言ってもいいか?」

 

俺は、振り返らなかった。

なぜなら涙が止まらなかったから。

 

そして宍戸さんが次に言うであろう言葉が予測できたから。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・駄目です」

「そうか」

 

少し声が震えていたかもしれない、でもきっと宍戸さんが言おうとした言葉。

 

 

それは『ごめん』だろうから。

優しい宍戸さんはきっと俺に謝らずにはいられないだろうから。

 

 

でも、きっとその言葉を聞けば俺は宍戸さんを困らせてしまうから。

だから・・・・・・俺は。

 

 

 

「それじゃあ・・・・・・さようなら」

「ああ」

 

 

俺は、ドアを閉めた。

涙が、止まらなかった。

 

 

 

 

跡部部長のところへ報告に行かないと・・・

 

そう思うのに、俺はドアの傍を離れることができなかった

 

 

 

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