【プログラムから脱走者が出た】

 

最近国内はそのニュースでもちきりだった。

脱走したのは、不二周助と乾貞治。

 

 

 

 

 

20.翼があれば飛びたいとう心をまだ持っている

 

 

 

深夜、ルドルフ寮の窓を、コツコツと誰かが叩く音がした。

「・・・・・・?」

 

俺は、ベッドでもう寝静まっている相部屋のヤツを起こさないようにそっと窓へ近づいた。

きっとそれは、少し嫌な予感がしていたから。

 

 

 

 

 

ガラガラ

 

窓を開けると、そこには右手を軽く挙げて「やっ裕太」といつもと変わりない態度をとる兄貴。不二周助。

 

 

「兄貴っ・・・!?」

 

血の気がひいた。

目の前にいるのは、ニュースや新聞に一日一度は大きく顔写真が載る、ある意味で有名人。

それが、深夜とはいえこんな人であふれかえるような場所へやってきて。

だけど兄貴はそんな俺の態度なんてお構いなしに、にっこりと笑って言った。

 

「ちょっと、話がしたくて。今いいかな?」

「・・・」

 

 

正直、いやだった。

俺は、兄貴がプログラムに選ばれた時点でもう兄貴は死んだっていうことにしてたから。

脱走してきた今、生き残った今、兄貴の味方なんて日本中のどこにもいない。

当然、俺もだった

 

 

 

無言の俺の態度を肯定と解釈したのか、兄貴は話し出した。

 

「そういえば、裕太の寮に来るのは初めてかもね。くすっ・・・なかなかいいとこじゃない」

「・・・・・・」

「裕太、最近はどう?調子は。」

 

「あっ、そうだ。今度こそ兄弟で試合しようか。まだ負ける気はないけどね」

 

「・・・・・・れよ」

 

 

「・・・・え?」

「帰れよ」

 

驚いた顔をする兄貴に、俺は冷たく言い放った。

こんな状況でどうでもいい話を並べ立てる兄貴に、余計に腹がたった

 

 

 

「何無傷でのうのうと帰ってきてんだよ。他の青学のやつらはどうしたんだよ?」

 

兄貴は何か言いたそうな顔をしたけど、俺はそれをさせなかった。

何も聞きたくなかった。

「俺、二度と会いたくなかった。俺の知ってる兄貴は、俺が目標としてたやつは、そんな仲間裏切ってまで生き延びようとするようなやつじゃねぇんだよ。俺の兄貴は、とっくにもう死んでんだよ」

 

「・・・裕太」

「迷惑なんだ。」

 

「人殺しの犯罪者に来られても、俺が迷惑するんだよ!」

「・・・・・・」

兄貴は、何か言いたそうな目をしたような気はしたけれど俺はそれを無視してはねつけるように言い放った

 

 

「・・・てけ。」

「・・・え?」

 

「出てけよ!もう俺に近づくな!」

 

 

俺はそう言って窓をぴしゃりと閉めた。

窓越しの兄貴の顔は悲しげで、俺は胸がぎゅっと締め付けられる感覚をおぼえた

 

 

 

「ごめん裕太・・・でも

「早く・・・!・・・いけよ。俺の前から消えてくれ」

 

寮の窓は薄く、窓越しでも兄貴の声はかすかに聞こえてくる。

 

だが、俺は兄貴の目を見ずに言った

顔をあげた瞬間、兄貴のブルーの目から光が消えているのが見えて、胸が痛んだ

 

「・・・あ・・・にき、」

言い過ぎた、そう思った

あんな兄貴の顔を見るなんて、思いもしなかった

だから、謝ろうと思った

 

 

そのとき、兄貴が口を開いた。

兄貴の声は少し震えていて、弱々しかった。

 

「裕太ごめんね。」

今にも泣きだしそうな兄貴の顔。

初めて見る表情だった。

 

「僕、もう一度裕太に会いたくて。それだけを願って、人を殺してきた」

「・・・・・・」

 

 

 

「だから最後に。これだけ言わせて」

 

 

「           」

声が小さくて、よく聞こえなかったけど、兄貴の口はその言葉をはっきり告げていた

 

兄貴は最後にいつもの嘘くさい笑顔を浮かべたあと、その場から消えた。

 

 

俺はそれと同時に崩れ落ちた。

涙が、頬を伝っているのを感じた。

 

 

 

 

「…迷惑ばっかかけやがって」

 

 

勝手だよ

忘れようとしてたのに

兄貴は死んだんだって、やっと受け入れられると思ってたのに

 

そんなときに勝手に来て、勝手に好き放題言いやがって

 

 

ばかやろう

 

 

 

 

 

なのにどうして

 

どうして俺の目からは涙が溢れる?

 

 

 

たんじょうび、おめでとう

 

 

 

「それだけのために、脱走までする必要あんのかよ・・・・・・!」

 

涙が止まらなくて、今さらになって俺は泣き崩れた

 

 

 

 

 

 

数分後、近くで銃声が聞こえた気がした。

 

おそらく明日の新聞は【反逆者不二周助・確保】という見出しが一面を飾るんだろう。

 

 

 

 

 

「ほんと・・・ばかやろうだよ・・・何もかもわかってここにきやがったんだから」

 

 

俺に会いにくること。

それは死を意味してたのに。

 

 

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

 

 

 

少し短い話になってしまいました。

タイトルとあまりリンクしていませんが、「翼があれば飛びたいと願う心」は不二兄の気持ちのことです。

 

 

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送