帰ってきた。

 

桃先輩が、たった一人で。

 

 

 

 

 

どうして?他の先輩たちは?

 

ねえ 桃先輩?

 

 

 

 

答えてよ

 

 

 

 

俯いてちゃわかんないだろ―――

 

 

 

 

 

19.生きてるアンタが誰よりも辛そうなをしているのは何で?

 

 

 

 

「第八回プログラム」に、2・3年のテニス部の先輩たちが選ばれたんだと俺が知ったのは数日後のことだった。

桃先輩が「プログラム」で優勝して帰って来た、という噂が町中に流れたからだ。

 

 

俺は桃先輩が帰って来た時の異変に気づいていたから、プログラムが何なのか調べてみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

【通称:BR法】

 

 

それが、「プログラム」の名前だった。

通称、「バトルロワイアル」。

 

 

 

バトルロワイアル・・・・・・・・・プロレスのバトルロイヤルをもじったものだと聞いた。

 

 

プロレスのバトルロイヤルは、リングの上に立つ人物が最後の一人になるまで戦うこと。

 

 

そして、バトルロワイアルは・・・・・・

選ばれた学生たちが最後の一人になるまで、殺しあうこと。

 

 

 

 

 

ぞっとした。

信じられなかった。

 

日本は、そんな法律を許しているのかと。

 

 

 

 

何より、あの先輩達が殺し合いをして、桃先輩が生き残ったということが

 

桃先輩が、もし直接的でなくても仲間を殺したということが

 

 

 

信じられなくて。

 

 

 

 

俺は家を飛び出した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

桃先輩の姿は「プログラム」から帰って来た日以来一度も見ていなかった。

先輩は学校にも一度も登校していなかった。

いつの間にか、部室のロッカーからも名前がなくなっていて、この学校から桃先輩の痕跡は全くもってなくなっていた。

 

 

桃先輩に関する噂はたくさん流れたが、肝心の先輩が今どこで何をしているのかという噂は全く適当な想像にすぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

走って走って、俺は桃先輩の家のチャイムを鳴らした。

 

 

3度ほど鳴らしたが、誰も出なかった。

家には人の気配がなかった。

 

 

 

ポストからはたくさんの郵便物がはみ出している。

はみだした郵便物の中に「呪う」「殺す」とかいう文字が見えたから俺は思わずそれをいっぱいのポストに押し込んで見えないようにした。

 

 

 

(・・・・・・桃先輩。)

 

俺は、先輩と話しがしたくてたまらなかった。

 

 

 

 

 

だから、沈んだ気持ちで家に帰る途中、河原で見つけた人物の後ろ姿に俺は思わず叫んだ

 

「・・・・・・っ桃先輩っ!!!」

 

 

 

 

俺が叫ぶと、桃先輩はゆっくり振り向き、少し目を見張った。

 

「・・・越前。」

 

 

 

 

桃先輩は俺の姿を見止めると、俺に背を向け再び河原を見つめた。

俺は桃先輩に少しずつ近づいたけれど、桃先輩は何も言わなかったから、いつの間にか桃先輩の隣りまで来ていた。

 

 

 

「・・・・・・ねえ、桃先輩」

「・・・・・・」

すぐ近くで声をかけても、桃先輩の視線は揺らぐことはなく、俺の声も聞こえているのかどうかすら分からなかった。

 

 

 

 

 

「桃先輩。」

「・・・・・・何だ」

 

ようやく返事をした桃先輩の横顔からは、以前のような覇気はちっとも感じられず、人形のように硬い表情をしていた。

 

 

 

 

「なんでこんなとこ・・・・・・いるんすか」

「・・・・・・墓参り・・・かな。」

 

 

「・・・墓参り?」

「ああ」

きっぱりと言い切った桃先輩の表情からは何も感じ取れなかった。

俺は桃先輩にこれ以上この話を聞くのは無理だと感じた。

 

 

 

 

「俺、先輩が、プログラムに選ばれたって聞いたんすけど」

「ああ」

 

即答だった。

俺の淡い願いはいとも簡単に打ち消された。

 

 

 

「・・・本当なんすか?」

「ああ」

あまりに淡々とした桃先輩の答えに俺は変な汗をかいていることに気づいた。

 

 

 

 

 

「・・・人、こ ろしたん すか?」

少し声が震えているのが分かった。

桃先輩も、これには少し喉を詰まらせたようだったが、こう答えた。

 

 

「ああ。」

 

 

 

その冷めた表情に、俺は心の奥底からふつふつとした感情が芽生えてくるのを感じた。

次の瞬間、俺は桃先輩につかみかかっていた。

 

 

 

「何でだよ!?どうして仲間を殺せるんだよ!?桃先輩!」

「・・・・・」

 

「一緒にテニスしてきたじゃないすか!ずっと一緒に頑張ってきたんじゃないすか!」

「・・・・・・」

 

先輩の力をもってすれば簡単に引き離せたはずなのに、桃先輩はなすがままになっていた。

俺は、そんな先輩に余計に腹がたった。

 

 

 

「あんたなんて最低だ!見損なったよ桃先輩!」

泣きながらそう言った俺を、桃先輩は少しばかり悲しげな表情を覗かせて見た。

 

俺はその桃先輩の表情の変化にはっとして我に返った。

 

 

 

 

 

「・・・・・・すいません」

 

桃掴んでいた手を離しうなだれた俺に、桃先輩は何も言わずに再び河原を見つめた。

 

 

 

 

 

それから長い沈黙が流れ、夕日が沈もうとする頃、桃先輩が口を開いた。

 

 

「なあ、越前」

「・・・何すか」

俺は、夕日で輝く河原に目を細めながら答えた。

 

 

 

 

「人を殺す、人の命を奪うってのはやっちゃいけねえよ」

「・・・?」

 

 

 

「想像してみろ、ぞっとする。」

俺が先輩を見ると、桃先輩は、河原を見つめたまま嘲笑にも似た笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「さっきまで動いてた人間が、ぴくりともしなくなる。テニスをしていたのに、笑いあっていたのに、息をしていたのに、それが全部できなくなる。」

「・・・・・・・・・」

 

 

「肌の色は土色になって、目は白く濁って、体が硬くなっていって。」

「・・・・・・・・・」

 

淡々と語り続ける桃先輩、その口から出てくる恐ろしい真実に、俺は何も言えずにいた。

 

 

 

 

 

 

「そんなのが、いっぱい、島中に転がってる。おかしくなりそうな光景だ・・・」

桃先輩は、そこで思い出したのか頭を抱えるような仕草をした。

俺は、ただそんな先輩の様子を、じっと見ていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・なあ、越前」

「・・・はい」

桃先輩の目は、相変わらず遠くを見つめたままだった。

 

 

 

 

 

「それでも・・・・・・な。」

 

 

川の水が流れる音だけが、この場に満ちていた。

 

 

 

 

 

「そんな世界でも、俺は『生きたい・・・』って思ったんだ」

 

 

 

「・・・・・・・・・桃せんぱ

「俺は、周りにいたたくさんの生きたいって思ってるやつ等を殺した。」

 

 

 

「自分さえ助かればいいと思った」

「他のやつのことなんてどうでもよかった」

「殺すことなんてなんてことなかった」

 

 

 

 

「・・・自分さえ、生き残れればいいって思った」

桃先輩はそこまで一気にまくしたてると、ハァ・・・と小さく息をつき俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ねえ・・・・・・じゃあ何で?」

 

俯く桃先輩に、俺は言った

俺の声はきっとどこか掠れていただろう

 

 

「・・・・・・・・・?」

顔をあげた桃先輩と、初めて目が合った。

 

 

「ねえ・・・」

瞬間、俺の目から涙がこぼれた。

 

 

 

「生きてるアンタが、一番辛そうな瞳をしてるのは何で?」

 

 

 

 

どうしてこの人の背中は、こんなにも小さいのだろう

どうしてこの人の瞳は、こんなにも絶望に満ちているんだろう

 

 

 

俺は見たんだ

 

 

「そんな世界でも、俺は『生きたい・・・』って思ったんだ」

そう言ったあと、確かに先輩の目に浮かんだ涙を

 

 

 

 

 

 

 

「なんで?・・・桃先輩・・・?」

「・・・・・・終わりだ」

 

 

先輩は、俺から目をそらすと、立ち上がった。

 

「・・・・・・?」

 

 

 

「じゃーな、越前」

 

先輩は、そう言って走り出した。

 

 

 

 

 

 

俺が桃先輩に会うことはそれ以来一度もなかった。

俺はあのときのことを決して忘れないだろう

 

 

先輩が俺に話した真実も、

俺についたバレバレの嘘も、

先輩を見送った後の河原に、「海堂薫様」と先輩の字で書かれた花束が置いてあったことも―――

 

 

 

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 

読んでいただいてありがとうございました。

今回は桃リョの友情ものです。

桃城は海堂の墓参りに河原に来ていた、ということです。

何ともいえない作品になってしまいましたが自分的にはこういうの書きたかったので良しとします。笑

 

 

 

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送