17.死にたくないってく僕はかっこ悪いかな?

 

 

 

タカさんに会った。

彼のジャージにはたくさんの血が付着していた。

 

だけど僕はすぐにわかった。

それはタカさんの血ではなく、返り血でもないと。

 

 

どうしてかって?

 

それは、僕がゲームに”乗る”立場だったから。

 

 

人間っていうものは、自分と同じニオイのする人はすぐに解るから不思議だ。

僕はタカさんは、まだ誰も殺していない・・・そう確信した。

 

 

 

「不二・・・」

 

タカさんは真っ直ぐな目で僕を見つめると、いつものように呼びかけた。

僕の真っ赤に染まったジャージなんて、まるで気にしていなかった。

そこにはいつものタカさんがいた。

 

 

 

「やあ、タカさん」

僕もにこやかに返答をした。

ポケットに入れたナイフを、そっと右手で握り締めながら。

 

 

タカさんは、何か考えるような素振りをし、少し間を置いて言った。

 

 

 

 

「不二、俺、英二に会ったんだ」

 

「・・・そう」

僕のそっけない反応にもタカさんは嫌悪感を示すことはなく、そのまま言葉を続けた。

 

「誰かに、刺されて死んでた。」

「・・・・そう」

 

 

「この血は、その血なんだ・・・」

 

言いつつ、タカさんは自分のジャージを指差した。

べっとりとした血がそこには付着していた。

端の方は既に乾いて茶色く変色していた。

 

 

僕は自分の予想が正しかったと思った。

タカさんは、人を殺してない。

 

 

 

 

 

「・・・ねえ、タカさん。」

「何?」

 

「驚かないで聞いてくれる?」

「ハハ・・・怖いなあ、わかった、言ってみてよ」

 

 

タカさんは、苦笑した。

その微笑みはいつもと全く変わらなかった。

 

僕がこういう風に言い出すときは大抵無理難題を押し付けたりするときだったから。

でも、タカさんは僕の望みを黙って聞いてくれた。

 

 

ガラにも無く、そんな微笑みを懐かしんだ僕がいた。

だから僕は、その微笑を手放してしまうことを少し惜しいなと思った。

 

 

でも、そんなかすかな感情も僕のどす黒い欲望に混じり、かき消された。

コロセ、今はただそれだけでいいんだ。

 

 

 

「僕、英二を殺したよ」

「!?」

 

驚かないで、といったはずなのに、やっぱりタカさんは目を見開いた。

そして、そのまま口をつぐんだ。

 

 

・・・・ほら、やっぱり。

 

僕はそう思った。

 

 

同じだ、今まで遭遇した奴らと。

 

 

 

僕が殺人者だと知ると、突然黙り込む。

 

 

 

 

口元に嘲笑が浮かんだ。

結局、タカさんも他の皆と同じじゃないか。

 

 

僕は、ナイフを強く握り締めた。

 

人を殺すことに、何の抵抗も感じなかった。

結局少し違うなという雰囲気を感じさせたタカさんも、他の奴等と何ら変わりなかったんだ。

 

 

 

僕がナイフを取り出そうとした瞬間、タカさんが口を開いた。

 

 

命乞いか、それとも英二のことで僕を責めるのか、と僕は思った。

今までの奴等も大抵そうだったから。

 

 

それなのに、タカさんから出た言葉があまりに想像とかけ離れていたから、僕は心底驚いた。

 

 

 

 

「不二・・・本当は殺したくなかったんだよな。英二も、他のみんなも。好きでゲームに乗ったわけじゃない」

 

タカさんの表情は冗談を言うような表情ではなかった。

 

 

 

「・・・・!?違うよ・・・・・僕は、自分で決めた。殺人機械になると、ゲームに乗ると」

 

わかったような口をたたくな、そう思った。

僕の口調には今までの無感情な声とは違い、少し怒りが混じっていた。

 

 

 

タカさんは、そんな僕の変化にもまったく動じない。

 

タカさんは気が弱そうに見えたり、優しいから誤解されたりするけど、本当は・・・・とても強い。

 

 

 

「もし、もしそう不二が思っていたとしても本当は不二は、俺たち青学の仲間のことを大切に思っていると思うんだ」

 

「・・・・・・っ!!?何で・・・そんなことが言える!?」

 

 

 

完全に取り乱していた。

 

 

どうして、どうしてそんな台詞を吐く?

 

僕が今までどんな気持ちで人を殺してきたかなんてどうでもいいじゃない。

タカさんには関係ないじゃない。

 

 

 

「だって・・・・・不二は俺たちの仲間だから」

 

ずしり、とその言葉が僕の胸に圧し掛かった。

何で・・・・・そんな言葉を。

 

 

 

「・・・偽善者」

 

 

そう言って僕はナイフを振り上げた。

 

ざくっ

 

 

振り下ろしたナイフは、タカさんの左肩に突き刺さった。

肉のさける感触と共に、生暖かい血が僕とタカさんに降りかかった。

 

 

タカさんは、痛みに顔を歪めて笑った。

その笑顔はとても痛々しく、儚く、美しいと思った。

 

 

「不二・・・・・、俺たちの分まで、生き・・・・・て・・・・く」

 

ざくっざくっざくっ

 

 

僕はその言葉を遮るかのように更にナイフを深く、たくさん突き刺した。

 

 

「うるさい、うるさいうるさいうるさい」

 

 

ざくっざくっ

 

 

 

「黙れ黙れ黙れ」

 

ざくっざくっ

 

 

 

 

「青学のため?違うよ・・・・僕は、自分のために・・・自分のために・・・・」

 

ざくっざくっ

 

 

 

「僕は、君ほど強くないんだよ、解る?!解るわけないよね、強い人に弱い奴の気持ちなんて!」

 

ざくっざくっざくっ

 

 

 

「僕は、僕は・・・・・・・弱いんだよ・・・・どうしようもなく、弱いんだよ」

 

 

ざくっざくっ

 

 

 

「殺すしか、殺すしかなかった、弱い僕が生き残るためには・・・・!弱い僕だからこそ、死ぬのが怖かった・・・!」

 

 

 

ざくっ   ざくっ

 

 

 

 

「死にたく・・・・っないんだ・・・・・」

 

 

涙が、落ちる。

 

 

 

責めてくれればよかったんだ、人でなし、と僕を傷つける言葉を吐いて、軽蔑して。

他の奴等と同じように、恐怖に怯えて、僕のことを恨めばよかったんだ。

 

そうすれば、僕は、僕は、君を痛みなく殺せたんだ。

 

 

 

なのに。

 

 

どうして・・・受け入れるわけ?

 

 

どうして、君は僕の深くに仕舞った良心に語りかけるわけ?

 

 

 

「タカ・・・さんっ!」

 

幾度目か知らないナイフを抜いた時、タカさんの顔はもう原型を留めていなかった。

 

 

 

 

「わあああぁあああああああっーーーーーーーーっ!」

 

 

僕は、タカさんの体に顔をうずめて泣いた。

 

 

悲しかった。

 

 

これまで人を殺し続けてきた重みが一気にのしかかってきた。

 

自分がどれだけのことを今までしてきたのかを知って、自分が怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ・・・タカさん・・・・」

 

語りかけたタカさんが返事をすることはなく。

 

それでも僕の頭の中には、笑顔のタカさんがいた。

 

 

 

 

「僕・・・・ダメなのかな?」

 

 

 

 

「生きちゃ・・・・ダメなのかな?」

 

 

 

 

 

 

「仲間を殺して、タカさんを殺した今でも、死にたくないって嘆く僕は、格好悪いのかなあ?」

 

 

やっぱり、死ぬのは怖いんだ。

 

 

 

 

 

 

 

*後書き*

私実はタカさんと不二の友情が物凄く好きなんです。

というかタカさんを尊敬しているんです。

私はタカさんの心は一番綺麗で一番強いと思っています。

タカさんのバトル内での理想像を埋め込みまくりました。

不二には、人間の汚いところを垣間見せたかった。

結局弱さを克服するのは自分でしかないという感じでしょうか、どちらかというと私は不二の行動パターンを採りそうです。(笑)

ここまで読んでいただいてありがとうございました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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