あの人は、確かに無敵だった。

このゲームにおいては、手塚部長よりも強く、不二先輩よりも狡猾に、人を殺していた。

 

 

 

 

16.方は一番会いたかった人で一番会いたくなかった人

 

 

 

 

「今回の死亡者は1名、手塚国光。残りは2名、禁止エリアを拡大します・・」

 

 

その放送が流れたとき、海堂の体からは震えが止まらなかった。

 

残り2名まで残ってしまった、という恐怖。

そして、目の前にある『手塚国光』、部長と崇めていたその人物の死体の無残さ、それら全てに、海堂は怯えていた。

 

 

 

 

残り2名、といっても、海堂にはあと一人は誰だか解っていた。

 

 

 

 

「残り2名か・・・早いな、海堂。」

 

掛けられた声に我に返った海堂は、ぴくりと体を震わせると、首を縦にふった。

 

 

海堂を除いての唯一の生存者は3年の乾貞治だった。

眼鏡の奥に隠れた乾の表情は海堂が思うに至極冷静だった。

 

 

 

 

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「海堂、俺と組まないか?」

 

何処かで聞いたような言い回しだが、乾はそう言って1日目の夜海堂に話しかけてきた。

 

 

海堂は考える間もなく肯定の言葉を発していた。

海堂は乾を尊敬していたし、好意をも抱いていた。

 

だから、この状況で行動を共にすることは海堂にとってはごく自然のことのように思われた。

 

 

 

だが海堂は嫌な予感もよぎっていた。

 

海堂は乾に会いたいという気持ちの反面、できれば乾には会いたくないとも思っていた。

会いたいけれど、会いたくない・・・・矛盾しているようだが、正直な気持ちだった。

 

 

そしてその嫌な予感は、的中した。

 

 

 

 

海堂が乾と組んで最初に出くわしたのは越前リョーマだった。

越前はいつもの挑戦的な瞳で海堂と乾を見据えて言った。

 

 

「へえ、アンタたち、こんなとこでも組んでんだ?」

 

「ふしゅ〜・・・ほっとけ」

「まあ、そういうことになるな。ところで越前、お前は一体これからどうするんだ?」

 

 

「・・・まあ、テキトーにやり過ごすよ、こんな馬鹿げた試合。誰とも『組まない』ことは確かだけどね」

 

 

「・・・そうか、なら越前。ここで死んでもらおうか。敵は少しでも少ない方がいいからね」

 

 

海堂の記憶はあいまいだが、越前との会話はこのようなものだったはずだ。

 

乾はその後越前を一発で撃ち殺した。

 

 

海堂は、ただ驚いて目を見開くことしかできずにいた。

乾はそんな海堂を見ると言った。

 

 

「ほら行くぞ、海堂。『狩らなきゃ』この試合には勝てない」

 

 

何故あのとき乾に付いていったんだ、海堂は今でも疑問に思う。

 

だが、あのとき乾が見せた『勝ちたい』という執着はテニスのときと似たものを感じた。

そして、勝ちたい・・・その気持ちは海堂も同じだった。

 

 

 

乾は驚くほどに強かった。

 

海堂のでる幕などなく、むしろ海堂は自分を足手まといな存在に感じるほうが多かった。

 

『狩る』ことに対して、海堂はできるだけ感情を出さずにその光景を眺めていたが、青学の部員の命が奪われるときだけは決まって目を伏せた。

 

 

そうこうして、まだ1日も制限時間が残っているというのに、あと二人。

 

海堂は、ここで乾に殺されると思った。

 

 

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「海堂、どうした、ぼーっとして」

 

「あ・・・いえ、何でもない・・・っす」

「そうか」

 

 

いつもと変わりない様子に見える乾だったが、静か過ぎて海堂は恐怖を覚えた。

 

いつも、自分の味方であったからこそ、恐怖を感じずにいられたものを、いまやその視線が向けられる対象は自分しかいない。

殺される対象もまた自分しかいないということの表れだった。

 

 

 

「なあ海堂」

「・・・・」

 

海堂は決して無視したわけではなく、恐怖で声がでなかっただけだった。

 

 

 

「お前・・・・人を殺したこと、なかったな?」

「・・・・・はい」

 

「そうか。オーケイだ」

 

 

乾は自分の中で何か納得したらしく、海堂から離れたディバッグの所へと移動した。

そして、ディバッグから何かを取り出すと、海堂の方へと向かってきた。

 

 

 

「海堂・・・このゲーム、どうやら俺の描いた結末どおりになりそうだよ」

 

 

 

そう言って乾が見せたのはキラリと光るナイフ。

 

 

 

 

逃げろ

 

 

海堂の本能はそう告げた

 

 

だが、海堂は恐怖で動けなかった

嫌な汗が海堂の頬を伝う

 

ナイフの尖った切っ先に、ナイフを向けられる恐怖に今にも座り込んでしまいそうだった

 

 

 

 

 

「海堂、大丈夫だよ、怖がることはない」

 

 

「・・・・嫌だ・・・」

 

 

乾は、海堂の言葉を無視した。

 

 

 

次の出来事は、あまりにも一瞬で海堂は頭が真っ白になった。

 

 

 

乾は、海堂に自分の持っていたナイフを握らせ、上から自分の手を添えて思い切り自分の腹部に刃先を突き刺した。

「!!!」

 

 

 

乾は自分の腹部を見つめると、満足そうに笑みを浮かべた。

 

「・・・・くっ・・・・な、・?海堂・・・ダイジョブ・・・だった・・だろ?」

「・・・・、だ、大丈夫なはずないだろ・・・・?!何やってんだアンタ!笑ってんじゃねえ!」

 

海堂は乾の腹からナイフを引き抜こうとした、が、思いのほかナイフは深いところまで刺さっている上に乾が上から押さえる手で容易に抜けなかった。

 

 

乾はしっかりとナイフを握り締めたまま、海堂を見上げた。

 

「海堂に・・・殺・・され・・たかっ・・た。・・俺・・・は、・・・・・・・・・その・・・・ために・・・こ・・・こまで、」

「喋んじゃねえ」

 

「やっ・・・て・・・きた・・」

「喋んじゃねえ」

 

「海・・堂・・・が、俺・・・・以外の・・誰か・・の命を・・・・」

「喋んじゃねえ」

 

「奪・・・うとこ・・・ろを、見たく・・・な・・かっ・・・た」

「喋んじゃねえ!」

 

 

海堂の目には涙が浮かんでいた。

ナイフの柄はいつでも離すことができたが、海堂はその手を離すことができなかった。

 

 

 

 

「海・・・堂。会え・・・・て・・・・よ・・かっ・・・・」

 

乾の手が、海堂の手の上から落ち、だらりと垂れ下がった。

 

 

 

 

「乾先輩・・・?乾先輩!」

 

 

 

 

 

 

 

悪夢だ。

 

これは悪夢だ。

 

 

いや、悪夢ならどれだけマシなことだろう。

今この感触がリアルだとしても、醒めない夢などないのだから。

 

 

死ぬのはどれだけ痛いんだろう

 

どれだけあの人は痛かったんだろう

 

 

 

あの人の内臓を切り裂いたときの感触

 

吐き気がするほどの命の重さ

 

 

 

どれだけの犠牲を払って

 

どれだけの決意で

 

 

あの人はこの行動をしたんだろう

 

 

 

 

だから、嫌だったんだ

 

嫌な予感がしたんだ

 

 

 

 

「乾先輩・・・・・俺はアンタに会いたくなかった・・・・」

 

 

 

 

冷たい雨が振り出した。

 

雨は、俺の体、乾先輩の体を洗い流す。

 

 

 

血は流れる

 

 

だが、俺たちが犯した罪までは洗い流してはくれないだろう

 

 

 

 

 

 

 

*後書き*

乾海やっちゃいました。

かなりノリノリで書いてしまったので、アップしてから自己嫌悪に陥りそうな作品です。

でも、こういう感情を書くのは非常に楽しかったです。

乾も海堂も、自分のやったことに苦しみ続けるんだろうなと思います。

ではでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

 

 

 

 

 

 

 

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