15.俺も空がべるかなって少ない意識の中でつぶやいた

 

 

 

 

柳生比呂士。

奴は立海テニス部、いや、中学テニス界において尤も礼儀正しく、紳士な男やった。

 

 

 

ゲームに選ばれたとき、俺の頭には真っ先に柳生の顔が浮かんだ。

 

不謹慎かもしれんが、あいつが、柳生がこのゲームに投げ込まれるところを俺は見てみたかったんかもしれん。

 

 

お前でも取り乱したりするんか、それとも、仲間を集めて策を講じるのか・・・・。

俺の気持ちはこんな状況だというのにわくわくという感情の近いもんがあった。

 

 

 

俺は密かに柳生を待ち伏せし、こっそりと後をつけた。

早く柳生がどのような行動を起こすんか見たかったんじゃ。

 

 

 

 

だが俺は、柳生比呂士という男を知らないうちにナメて見ていたようやった。

 

 

 

柳生は躊躇なく人を殺した。

決して相手が苦しまない方法をとり、出血も自分にかからぬよう配慮し、武器についた血を拭き取る様はまさに『紳士』やった。

 

 

 

この男は、どうしてそこまで紳士にこだわるんじゃろう。

 

幾度目か知らない、柳生が人を殺した時、俺はたまらず飛び出した。

 

 

 

 

「・・・のう、柳生。お前さん、どうしてそこまでこだわる。」

 

「仁王君。・・・やっと出てきましたね、どうして今までこそこそと付回していたのです。」

 

 

言いつつ、柳生は少しも汚れていないジャージの裾で眼鏡を拭いた。

 

「お前さん・・気づいとったんか」

「ええ、仁王君だと解ったのは先程ですが」

 

 

 

柳生は、紳士のソレと思われる微笑を浮かべた。

そのとき、ぞくっとした悪寒が俺の背中を走った。

 

 

 

俺は一歩後ずさり、柳生は俺に一歩近づいた。

柳生の右手には、黒光りする銃が握られていた。

 

 

ふと揺らいだ視線が柳生の視線とぶつかり合った。

 

そのとき俺は、悪寒なんてものでは言い表せん底知れぬ恐怖を感じた。

 

 

 

「・・・・っ」

自分の生唾を飲む音がやけに大きく聞こえた気がした。

 

柳生は静かすぎるとも思われる微笑みで近づいてくる。

 

 

 

この数日で、俺は2度も柳生のことを甘く見ていたようやった。

こいつが殺人者だということをどうして今まで忘れていたんじゃろう。

 

 

俺は、自分の軽率さを呪った。

 

同時に柳生比呂士という男は何処までも計り知れない男だということに気がついた。

 

 

柳生は、一歩一歩と俺との距離を縮めていた。

もう、手を伸ばせば届く距離に柳生はいた。

 

 

 

柳生はそこでぴたりと立ち止まった。

 

 

俺は、柳生に視線を向けることは敵わなかった。

俺はただただ、前を見つめていた。

 

柳生は、そのままの姿勢で言った。

 

 

 

 

 

 

「どうしてそこまでこだわるのか。そう、尋ねましたね?」

「・・・・・・・」

 

 

ああ、と答えようとしたが、俺の口から言葉は出なかった。

柳生はふっと笑みをもらすと・・といっても、これは俺の推測、なぜなら柳生の表情は俺の場所から見えんかったから・・・言った。

 

 

 

 

「仁王君・・・貴方は天国を信じますか?」

 

 

「・・・は?」

 

 

思わず間の抜けた声を出した俺に、柳生は苦笑した。

尤も、これも俺の推測じゃが。

 

 

 

 

「私は、天国というものに昔から行ってみたかったんです。そのために、他人から『紳士』と呼ばれるような振る舞いをしてきた。私は、何としても天国に行きたかったんです」

 

「・・・・・・?」

 

 

 

「ならどうして仲間を殺したのか、そうお思いでしょうね。・・・・・仁王君、貴方はこの世界で何を正義だとお思いになりますか?正義なんて言葉、この世界に存在するとお思いですか?・・私の答えは、NOです。この世界には幸せも正義もありはしない。」

 

 

こんなに饒舌な柳生は初めて見たから、俺は驚くばかりで口を挟めずに居た。

柳生はそこで一旦話を区切ると、一息ついてまた話し始めた。

 

 

 

「だから・・・私は、こんなに酷い世界に居るよりは、痛み無く送られた方が幸せだと判断したんです。それが、此処で通用する私の唯一の正義です。」

 

「・・・・・・」

 

 

 

俺が黙っていると、柳生は少し涙ぐんだ声で言った。

 

 

 

「少し・・・おしゃべりが過ぎたようですね。もう、お別れです。私は行きます。」

 

 

その言葉の意味を理解するのに俺は珍しく時間がかかった。

横から不意に柳生の気配が消えたと思った。

 

 

 

 

 

俺が振り向いた時、目にした光景に目を見張った。

 

 

 

 

 

飛   ん   だ   。

 

 

 

正にその表現が相応しい。

 

お前は、飛んだ。

 

 

 

 

最後まで紳士らしく、綺麗な姿で、柳生は飛んだ。

 

 

 

 

俺は決して柳生が飛び降りた下を見ることはせんかった。

 

柳生もそれを望まんということを俺は理解していた。

 

 

 

 

「のう・・・・柳生。」

 

俺はもう見えなくなった柳生に向かって問いかける。

 

 

 

 

 

「天国へ行けたら・・・・連絡くらいしんしゃい。」

 

 

 

柳生の飛んだ場面が頭から離れん。

 

 

それは俺の脳内を支配し、思考をも侵食する。

 

 

 

 

「じゃが・・・・、どうして俺も殺していかんかった?どうして俺をこの世界に残したんじゃ?」

 

 

次第に疑問が生まれ、俺は生きる意志を失くす。

 

 

 

 

 

「この、『正義も幸せも何もない』世界に・・・・柳生・・・・」

 

ふらふらと、二本の足は柳生が飛び降りた場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「のう・・・お前、俺も殺していかな天国へは行けんぜよ・・・?」

 

それはまるで、麻薬のように、他人を引き付ける。

 

 

 

これが・・・・紳士であることの意味だったんじゃろうか・・・?

俺は徐々に何かに支配される体の中の少ない自分の意識で思う。

 

「柳生・・・はかり知れん男じゃ・・・・」

 

 

 

俺は、飛んだ。

もうこれが自分の意思であろうとそうでなかろうと、柳生の死に計画性があろうとなかろうと、どうでもいい。

 

 

 

どうでもいいんじゃ。

 

 

 

 

「柳生・・・・俺も、空が飛べるんじゃろか・・・・」

 

 

意識は、暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*後書き*

仁王と柳生!とくれば、謎めいた感じ(笑)

仁王と柳生ペアを執筆するのは初の試みで、かなりの苦労を強いられました。

いつも執筆していく途中で展開が変わっていくのは私だけ?(笑)

柳生が本当に死んだのか、フリなのかはそれぞれの判断にお任せします。

ではでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送