14.ふと横切った黒いが僕に死を告げた

 

 

 

 

観月が目を覚ましたのは、薄汚い教室だった。

 

今日は観月たち聖ルドルフのメンバー、そして青春学園のメンバーの合同合宿だった。

だが、その道中バスの中で突然意識がなくなり、今この教室で目覚めたというわけだった。

 

皮肉なことに、聖ルドルフでのクラスと同じ席に観月は座らされていた。(尤も、これはきっとただの偶然だ)

 

 

そして観月は、すぐさま首に装着された首輪の存在に気がついた。

観月の肌は異物に純粋に反応して既に首の周りは微かに赤くなっていた。

 

 

 

観月の頭にはBR法という言葉が浮かんでいた。

 

・・・・当たってしまいましたか。

 

 

観月はため息をついた。

 

観月はプログラムに自分のクラスが選ばれたら、そんなシュミレーションを何度も頭の中で描いたことがあった。

不謹慎なことなのかもしれないが、あらゆる可能性を考えそれに備える・・・観月にとって当然のことであった。

 

3年、全国で50クラス、可能性としてはそう低くない。

 

 

 

 

だが、観月には解せないことがあった。

 

(何故クラスじゃない・・・?)

 

 

観月は、クラスで行われるプログラムでは優勝目指して殺戮を行うことに決めていた。

観月にとってクラスメイトなどはっきり言ってどうでもいい存在だった。

 

 

その為に密かに護身術を研究したり、銃の扱い方を独自に調べたりした。

 

だが、今この教室にいるのは裕太たち2年、そして青学の生徒を含むテニス部員たち。

 

 

 

これは、BR法ではないのでしょうか。

 

そんな考えが頭をよぎったとき、勢いよく教室のドアが開け放たれた。

 

 

 

ドアを開けた人物を見て観月は嫌悪感を抱いた。

 

血のように真っ赤な口紅を塗りたくり、ピアスにブレスレット、派手な服装・・・まるでこの場に似合わない。

そしてそのオンナは十数人の迷彩服の軍隊を引き連れて教室へ入ってきた。

 

 

オンナはざわめく教室を一瞥すると、迷彩服の集団に顎で合図をした。

 

 

 

バンバンバンバンバン!!

 

 

 

突然、凄まじい音と共に天井に向かって銃が発砲され、教室は静かになった。

 

 

(・・・威嚇射撃か。)

 

観月はしらっとした目でオンナの腕あたりを見つめながら思った。

 

 

 

「静かにしてくれて嬉しいわ。それじゃあこれから第・・・何回だっけ?ああ、そう、十二回・・・のプログラムを開催します」

 

どうやらふざけているのは見た目だけではないらしい。

 

 

観月はあきれ返った。

どうしてこんなオンナが政府の上に立っているんだ・・・。

 

 

 

オンナは皆の信じられない、という顔を見てにんまりと微笑んだ。

その微笑みに観月は吐き気を覚えた。

 

 

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冗談じゃない。

 

不二裕太は拳をぎゅっと握り締めた。

 

 

さっきから黙って聞いていれば信じられない言葉がこのオンナからぽんぽん飛び出す。

 

こいつは、俺たちの命を何だと思ってるんだ。

今すぐこのオンナの首を絞め殺してやりたい。

 

 

それでも裕太がなんとか怒りをこらえられたのは一枚のメモのおかげだった。

 

観月の字で、「エリアCの3」という走り書き。

観月さんはきっと脱出を計画しているに違いない。

 

 

裕太は疑いもなくそう思った。

 

 

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「やあ観月」

建物を出た所で微笑を浮かべ観月に声をかけてきた人物がいた。

 

「おや不二くん・・・貴方ですか」

 

 

声をかけたのが不二周助だと知って、観月も負けじと微笑を返した・・こんなところで、弱みを握られたくはないというのが観月の本音であった。

 

不二は、それっきり何も喋りだす気配はなかったし、観月は早くルドルフのメンバーと合流したい気持ちでいっぱいだったから、観月は口を開いた。

 

 

 

「通していただけませんか。僕は行くところがあるんです。」

 

「行くところ・・・?」

 

 

不二は、観月を冷たい目で見つめると、さも可笑しそうに笑った。

 

観月が不審そうな顔をしていると、不二は急に笑いを止めて言った。

 

 

 

「うん、そうだね観月。君が行く場所・・・それは地獄だよ」

 

不二は、後ろ手に隠し持っていた銃を観月に向け、引き金を引いた。

 

 

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「くっ・・・・」

不二の手から銃が落ちる。

 

代わりに、不二の左胸からは溢れんばかりの血が流れ出した。

 

 

「・・・ゆ・・・・うた・・・!?」

そこには硝煙反応の白い煙を出す銃を構えた、不二の実の弟、不二裕太がいた。

 

 

 

「兄貴・・・何してんだよ。大丈夫ですか、観月さん!」

裕太は不二を軽蔑したような目で見下ろすと、観月に駆け寄った。

 

 

観月は不二を一瞥すると、裕太の肩に手を置いた。

 

「んふっ大丈夫ですよ。さあ、行きましょう。赤澤くんたちがお待ちかねでしょう・・・

そう言って観月は裕太を押しながら、不二を冷たい視線で見下ろした。

 

 

 

不二の視界はぼやけていたが、観月の表情だけは鬱陶しいほどに綺麗に見えた。

そして不二は観月の唇が動いた形を、明確に読み取れた。

 

 

”貴方の弟、利用させてもらいます”

 

 

不二は観月につかみかかろうとしたが、体が痺れて適わなかった。

そして二人は、地面に寝転がる不二を置いて、森の方へと去っていった。

「く・・・・・そ!」

不二の声は、観月に聞こえたのだろうか、二人は立ち止まらなかった。

 

 

 

数分後。

 

虫の息となった不二へ、一羽の黒い蝶が止まった。

 

 

「観・・・・月・・・・」

 

不二には、その蝶はとてつもなく観月と似通って見えた。

 

その漆黒の瞳で相手を魅了し、次々と獲物を変えて確実に生き残る。

 

 

 

ただ、不二は知っていた。

 

 

「蝶には・・・・帰るところがないんだ」

 

 

仲間を手にかけたものに、幸せなんて訪れない。

 

 

黒い蝶は、僕に死を告げた。

 

だけどそれは、君自身の死も現しているんだよ。

 

 

不二は、蝶を握りつぶした。

そして自らも静かに息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

*後書き*

いつもと作風が違う気がします。

かなりの難題でした。

観月と不二の関係ってすごく不思議です。

二人は結局似たもの同士なのかなとか思いつつ書きました。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

 

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