13.見上げたは笑ってた、「バカみたい」だって

 

 

 

何で俺はこんなところでこんなことをしているんだ

何でこんなに手を汚しているんだ

 

ああ 早くこんなクソゲーム終わればいいのに

 

否、終わらせたいのなら自分の手で終わらせないといけないんだったな・・・このゲームは

 

ああ 面倒だ

 

 

手にした刀に手を伸ばすと、僅かに血の匂いがする。

今まで殺した仲間たちの血の匂いだろう。

 

 

 

 

日吉に支給された武器は、リボルバーだった。

このゲームの中では当たりに入るほうだろう。

小型だが、使い勝手がいい。

欠点といえば護身用なので殺傷力が低いことくらいだろうか。

 

 

だが、日吉にとってはそんな当たり武器よりも一人目に遭遇した部員が持っていた日本刀の方が随分使い勝手が良いものだった。

急所さえ捉えれば、一瞬で殺せる。

使い方を知っているものにとってはまさに『最強の武器』ともいえる代物。

 

 

特に日吉は生き残りたいとも思っていなかったが、誰かに殺されるのは癪だった。

そうなると、必然的に現れた奴は全て殺していくことになり、その人数はかなりの数に及んだ。

 

 

200人近くの部員総勢でバトルロワイアルなのだから、次々と対象が現れる。

だが、その度同じ動作の繰り返し。

まったくもっておもしろくない。

 

日吉は退屈していた。

 

 

 

 

「おっ日吉じゃんっ!」

休憩がてら木陰に腰をおろした瞬間、日吉を呼ぶ声がした。

 

日吉は反射的に声のした方向に向かい刀を抜いたが大きく空振りした。

このゲームで、日吉が標的を一撃でしとめられなかったのは初めてだったので、日吉は少し悔しく思った。

 

 

「おいおい、あぶねーな!俺だよ、向日!」

そういいつつ、ぴょん、と宙返りをしたのは日吉の1つ上の先輩でレギュラーの向日岳人だった。

日吉とはダブルスを組んだこともあり、あまり他人と関わらない日吉が人並みに話せた人の一人でもあった。

 

 

「・・貴方ですか。」

「おうよっ!何、お前乗ってんの?」

 

 

あまりにあっけらかんとした向日の様子に日吉は若干拍子抜けした。

今まで出会ったやつ等は日吉を見ると突然襲ってくるか、逃げ出すやつがほとんどだった。

それにくらべ向日の様子には恐怖や計算などは、まったく感じられなかった。

全くいつもと同じ様子。

 

 

「・・・乗ってる方に入ると思いますけど。それより・・・どうして?」

日吉は言ってから、自分で何故どうしてと聞いたのかわからなかった。

全くもって疑問が多すぎてそれしか言葉が出てこなかったのだ。

 

「?ああ、退屈そーだな、と思って」

向日は『どうして』をどうして声をかけたのか、と捉えたようだった。

 

 

 

「退屈ですよ、まったく、こんなゲーム」

「まあ、楽しくはねーよな。」

日吉がため息まじりに腰を下ろすと向日も苦笑を浮かべつつ日吉の隣りに腰掛けた。

 

日吉は当然隣りに座ったからにはいつものように五月蝿く喋りかけてくることだろう、と予測していたのだが、向日は黙りこくっている。

だが向日の右手の人差し指は終始動いて何かのリズムを刻んでいた。

視線は空を見つめているのだろうか・・・何か物思いにふけっているようにも見える。

 

日吉にしては静かな方がいいといえばいいのだが、黙りこくられると、逆に気まずいというものだ。

 

 

 

「向日先輩」

「んー?何だ?」

向日は人差し指の動きを止めたが、視線は相変わらず空の方向を見たまま答えた。

 

 

「先輩は、ゲームに乗ってないんですか?」

「あー・・あのさ、信じらんないかもしんねぇけど俺一人も人殺してねえんだ」

「今・・・もう50人以下ですよね。ただ、逃げてただけなんですか?」

日吉は疑問を持った。

向日のジャージには明らかに他人のものと思われる血液が大量に付着し、乾いていた。

だから、向日が誰一人として殺していない、ということにイマイチ真実味をもてなかったのだ。

 

 

向日は日吉の質問に黙って首を振ると、日吉の方をじっと見つめた。

 

「最初は逃げてた。でも、侑士に会った。侑士はゲームに『乗って』たよ。でも、それは俺を護るためだった。侑士は、俺のために何人もの人を殺した・・・・・。でもさ、俺はそんなことよりも残された時間を侑士と楽しく過ごしたかった。・・だけどその気持ちは侑士には伝わらなかったみたいで」

そこまで言うと、向日は言葉を濁した。

 

 

日吉も、その後は簡単に推測できた。

なぜならさして興味もなかった放送だったけれど、『忍足』の名前が流れたときのことだけは覚えているから。

 

つまりは、忍足先輩は向日先輩の気持ちを無視して殺戮を繰り返し、死んでしまったということ。

向日先輩のジャージの血は、忍足先輩の血。

 

「侑士は馬鹿だ・・・最後の人生なのに、あんなに無駄に過ごして・・・」

 

 

 

 

 

「俺は・・・俺のやったことは、無意味だったんでしょうか、無駄、だったんでしょうか」

日吉はふいに疑問に思い、向日に尋ねた。

 

 

べつに、答えがあるとは思っていない。

けれど、聞かずにはいられなかったから。

 

今の日吉の胸の内は何故か複雑だった。

 

 

 

特に生き残りたいとも思っていなかったくせにたくさんの仲間を殺した。

べつに何の罪もないやつら、同じ人間。

 

「殺されるのが癪」?

確かにそうだったかもしれない。

 

けれど、逃げようとしたやつらにまで止めをさしたのは誰だ?

問答無用で、会ったやつら全てを切り捨てたのは誰だ?

 

まぎれもなく、この俺だ。

 

俺は、さして忍足先輩と変わらない。

否、守るべきものが俺の場合は自分自身で、忍足先輩は向日先輩だった・・・ということくらいか。

 

 

今の俺には忍足先輩の気持ちが容易に推測できる。

ただ、引き下がることもできず、殺しを無意味に繰り返す。

ただの、殺人機械だ。

 

自覚をするととんでもない自己嫌悪に襲われ吐き気がする。

自分自身の意思で動いていると思っていたのに、いつの間にか俺は自分をコントロールできなくなっていたんだ。

 

 

 

「さあ・・・・・・わかんねえ。俺が今やってる『最後の人生を楽しむ』ってやつも、正しいか、意味があるかなんて全然わかんねえよ」

「・・・・それでも、俺は答えが欲しい。」

 

 

「いつだって・・・・答えはあそこにあんだよ。でも、自分がその答えを正しく受け取れているかどうかは結局自分自身が決めること。」

いいつつ、向日は地面にごろり、と寝転がった。

日吉もつられて横になる。

 

横になったとき、見上げた空はどこまでも高かった。

 

大きくて、自分をちっぽけな存在に感じて、日吉は馬鹿みたいだ、と思った。

こんな小さなことで悩んで、人生なんて本当はちっぽけなものなのに。

俺がゲームに乗ろうが乗るまいが、何一つ変わりはしない。

現に、こんなゲームが行われているときでも空は何も変わらない。

 

 

 

俺の無力さを見せ付けるように。

見上げた空は笑っていた、『馬鹿みたい』だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

*後書き*

やっと日岳が書けました!やった!

え・・・初めて死ネタじゃない!

自分で書いておきながら凄くビックリです。

このあと岳人と日吉がどんな判断をするかはそれはまたおまかせで・・・。

ではでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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