11.天使がお迎えに来た?それは悪魔だよ

 

 

 

ゲームが始まって以来、大石はひたすら歩き続けていた。

歩くのをやめれば恐怖が襲ってくるからである。

 

 

だが、そもそもその選択が間違っていたのだ。

 

大石が歩くたびに周りの草木が擦れあい音を立て、敵に居場所を知らせていたのだ。

 

 

 

 

大石なりに警戒心を充分に働かせていたつもりだった。

だが、甘かった。

 

 

 

背中、そして下腹部にかけて激痛が走り、大石は思わずその場に倒れこんだ。

腹部を見ると、自分の血で赤く染まっていた。

 

 

 

振り返りそこに佇んでいた人物を目撃したとき、大石にはまさか、という気持ちとやはり、という気持ちが入り混じっていた。

そこには体中に血を付けた青学の頭脳、乾貞治が立っていた。

 

大石は乾の姿を見た瞬間何か「違和感」を覚えたが、腹部にくる激痛ですぐに地面に倒れこんだ。

 

霞む視界で乾の姿はよく見えなかったが、膝をついて俺を見下ろしているようだった。

 

俺は、もう死ぬんだろうか

 

朦朧とする意識の中、大石が思い出した人物、それはパートナーの「菊丸英二」。

黄金ペアとよばれた菊丸とのダブルス、その試合一つ一つがまざまざと思い出される。

もう二度と菊丸に会えない、テニスができないのだと思うと大石の頬に涙が伝った。

 

 

「・・・・・・いし。おーいし、大石!」

 

心なしか幻聴まで聴こえてきた気がする

やけにリアルな英二の声。

 

「大石!大石ってば!!」

 

・・・・幻聴?

いや、これは幻聴じゃない

 

いつの間にか閉じていた瞼を無理やりあけると、そこには心配そうなパートナーの顔。

 

 

「英二・・・・・・?」

 

英二の視線は、俺の傷口に落とされていた。

 

 

「いいよ、しゃべらなくても」

 

英二の優しい言葉が、今の俺にはすごく心地良い

 

 

「もう、眠ってもいいんだよ」

 

その言葉が、すごく優しくて、俺は静かに目を閉じた。

最後に見たのは、天使のような英二の笑顔。

ああ、天使がお迎えに来たんだ。

 

そして、大石秀一郎はその短い生涯を閉じた

 

 

 

 

***************

 

悔しい

声を出せないのが 体を動かせないのが

悪魔のような笑みを浮かべ去っていくあいつを引き止められないのが

 

アイツもまさか俺がまだ生きているとは思うまい

 

 

 

大石を見つけたとき、俺は迷わず一緒に行動しようと誘うつもりだった。

だが、そのとき俺は見てしまった。

 

大石を狙う菊丸の姿。

 

菊丸と大石は、ダブルスパートナー同士で仲が良いはずだったから俺にとってはまさに計算外の出来事だった。

 

まさか

このプログラムでデータがあまり信用できないということは理解していた

しかし、この菊丸の行動は今回のゲームで一番想定できなかった事態だった

 

 

だから 冷静な行動に欠けてしまったんだ

 

 

俺はうかつにも菊丸を引き止めてしまった。

アイツは、身の毛もよだつような笑みを浮かべ、俺と大石を瞬時に撃ち抜いた。

 

 

大石の振り返ったときの顔は今でも脳裏に焼きついている

 

信じられない、とでも言いたげな顔だった。

俺は菊丸のことを言うべきか考えたが大石の気持ちを考えると何も言う事ができなかった

 

大石は俺の体から流れ出す血を大石を撃った返り血だと勘違いしたようだった。

大石が倒れこむのを見て俺もたまらず膝をついた。

流れ出す熱い血が地面を濡らした。

 

信じられないことはまだあった。

てっきり逃げたと思った菊丸が大石に声を掛けていることだった。

 

その様子ははたから見たらパートナーを気遣い、悲しみにくれる状況だったに違いない。

 

そして、大石もそれにまんまと騙された。

大石はまるで天使を見るかのような顔で、安らかに逝った。

 

菊丸は、大石の死を見届けた後、天使のような顔を一転、悪魔のような笑みを浮かべた。

 

そして、俺たち、じきに2体の死体となるものから去っていく

 

俺には、何もできなかった

 

 

 

大石に、本当のことを伝えることが

 

天使が迎えに来た?それは悪魔だよ、と

 

 

悪魔のような笑みを浮かべたアイツは俺たちの元から去っていった

 

 

 

 

 

 

*後書き*

すごく書きにくいお題でした。

ほんと、2週間くらい悩んで、こんなお話になりました。

菊丸は悪いやつじゃないんですよ。

でもこのお話では悪いやつになっちゃってますね(汗)

お読みいただきありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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