ある昼下がりの午後。
小鳥がさえずるその時間、公園はもうじき六角中学に入学するであろう小学生で埋め尽くされた。
輪の中心にいるのは、小学生の憧れの的、佐伯虎次郎。
テニス部でも精鋭な彼が遊びに来ると、自然と周りに小学生が集まるのだった。
だが、今日は特別集まる人数が多かった。
なぜなら佐伯はここ数ヶ月少しも姿を現さなかったからだ。
そして、六角中学にもう彼の籍は残っていない。
風のうわさでは、大怪我をしただとか、親の都合で転校しただとかそんな情報が飛び交っている。
そんな彼が、久しぶりにここ、千葉の土地へ帰ってきたのだ。
子供が集まらないはずがない。
「サエさん!!どこ行ってたんだよ!」
サエさん。佐伯の愛称だった。
「ごめん。みんな覚えててくれたんだね。」
佐伯は、にっこり笑った。
「サエさん!ダビデとバネさんは!?」
一人の子供が、そう聞いた瞬間佐伯の表情が一瞬曇った。
ダビデとバネさん。
天根ヒカル・黒羽春風たちもまた、佐伯と一緒に小学生と遊ぶことが多かった。
しかし、彼等もまたここ数ヶ月は姿を現さず、六角中学にも籍を残していない。
佐伯は質問には答えず、苦笑ともとれる笑みを浮かべた。
「1つ・・・お話をしてあげようか。」
「お話?」
「ああ、昔話だよ」
10.俺は生きる為にここに居る、だから死ねない
佐伯は抑揚のない声で淡々と語りだした。
「皆は、バトルロワイアル・・って知ってるかな。授業で習ったと思うんだけど。今から話すのはプログラムに選ばれた、ある中学生達の話だよ。」
子供たちはじっと佐伯を見据えて一言も聞き漏らすまいと構えている。
公園に訪れた静かな時間だった。
佐伯の声だけが、響いた。
「少年達・・そうだね、ここではAくん、Bくん、Cくんとでもしておこうか。彼等は、部活も同じで仲のいい友達だったんだ。」
プログラムに選ばれたときは、3人ともまさか、と思った。
そして、プログラムが始まったんだけどAくんとBくんとCくんは出発する時間がバラバラで、離れ離れになってしまったんだ。
でも、AくんとBくんは、たまたま運良く出会えた。
そして二人は一緒に行動を始めた。
行動といっても、AくんもBくんも人を殺す気はなかったし、ただ一緒に逃げるだけだったけどね。
問題なのはCくんだ。
Cくんは必死にAくんとBくんを探し続けた。
AくんとBくんも自分を捜してくれていると信じて、捜し続けたんだ。
でも、広い島で二人を見つけることはすごく難しかった。
捜している間に何発も銃声が聞こえたり、何体もの死体を見たり・・・・Cくんは怖くなった。
Cくんの武器は銃だった。
Cくんは、護身用だと言い聞かせてその銃を手に持って歩いた。
「Cくんは?Aくんたちと出会えたの!?」
先を急がせる小学生の言葉に佐伯は軽く微笑み続きを話し始めた。
そう、Cくんは出会えたんだ。
でもそのころもうCくんは精神的にも体力的にも限界だった。
Cくんから見たAくんとBくんは、凄く楽しそうだった。
Cくんがいなくても、まるで平気みたいな風にCくんの目には映ったんだね。
Cくんは今までの自分の苦労は何だったんだと思った。
自分は危険を冒してずっと二人を捜していたのに、Aくんたちはその間ずっと二人で笑いあって。
Cくんは腹が立って、持っていた銃を二人に向かって撃ってしまったんだ。
子供たちがはっと息を呑んだ。
佐伯は一呼吸置くと、ゆっくりと続きを語り始めた。
銃弾は、Bくんの頬を掠めてAくんの眉間に当たった。
Aくんは即死だった。
BくんがAくんの死体に寄り添う姿がまたCくんをいらだたせた。
どうせ自分は一人だ、二人で仲良くやってればいい、二人で死ねばいいんだ
Cくんはそう思った。
CくんはBくんに、「そんなに悲しければ死ねばいい」と言って銃を向けた。
でも、Bくんは首を縦にはふらなかった。
そのとき、Bくんはなんて言ったと思う?
「 」
Cくんは、その言葉に衝撃を受けた。
自分の心の弱さを思い知ったんだね。
でも、Cくんに今更後戻りはできなかった。
Cくんは、Bくんを撃ち殺して優勝した―――――――
佐伯はそうして話を閉じた。
辺りはまだ沈黙が漂っている。
「可哀相・・・・」
一人の子供が誰とも無しにつぶやいた。
「・・そうだね。Cくんの弱さのあまりAくんとBくんは死んでしまったんだから。」
そう佐伯が答えると、子供は首を振った。
「ううん、AくんとBくんじゃなくて。Cくんが可哀相。・・・・だって、もうCくんの傍には誰もいないんでしょ?」
「・・・・・そうだね。」
「なっ、サエさん!最期のBくんの言葉、教えてくれよ!」
「私も聞きたい!」
「いいよ。『俺は生きる為にここにいる、だから死ねない』・・・だってさ。当たり前のことなんだけど、やけに心に響いたよ」
「・・・サエさん・・・?」
佐伯は、涙を流していた。
子供たちが心配して寄り添うと、佐伯は”ありがとう”と優しく笑った。
「Cくんのことだけど・・・きっと一人じゃないと思うよ。これは俺の勝手な推測。これだけ心配してくれる子がいるんだから。」
意味がわからない、という表情を子供達は一斉に浮かべた。
佐伯はその表情を見て、また優しく笑うと言った。
「最初の質問だけどね・・・ダビデとバネさんはきっと元気だよ。今は遠いところに行ってるけどね。」
そう言って佐伯が空を見上げると子供達も一緒に空を見上げた。
「それじゃあ」
佐伯が立ち上がると子供たちが一斉に名残惜しそうな声を上げる。
「もう帰るよ、俺にはいるべき場所があるからね。」
それだけ言うと、佐伯は子供たちに背を向けて歩き出した。
もう真昼の眩しい太陽は夕日に変わろうとしていた。
「サエさん!絶対また、遊びに来てね!!!」
佐伯はその声に振り向くと、返事はせずに優しく笑った。
*後書き*
こういうタイプの小説を書いてみたかったんです。
バトル後・・・というよりもバトル後に思い出している感じのお話です。
六角の子供たちを登場させてみたかった。
実は初六角小説なので、口調などいろいろ矛盾してそう・・一応Bくんはバネさんです。
Bくんをダビデで想像していただいてもそれはそれで楽しめるかな、と思います。
お読みいただきありがとうございました。
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