僕には、夢がありました。

 

 

いつか、尊敬した先輩のように強くなって、背も伸びてカッコよくなって、期待の新人、とか言われるようになったりして。

 

 

 

そんな夢がありました。


叶わなくてもいいけれど、夢を描くことが楽しかったんです。

 

 

僕のまだ見えない将来の未来予想図だったんです。

 

 

 


09.いつか描いた幸せ理想図、そんな高望みなんてイラナイ

 

 

 

その日、空はどんよりしていました。


思えばこのときから僕の未来は閉ざされていたのかもしれません。

 

 

 

 

 

僕は、生き残りたかった。


でも誰かの命を奪いたくもなかった。

 

 

矛盾してたのかもしれないけれど、それが僕の正直な気持ちでした。

 

そんな気持ちで今までゲームを生き延びてきました。

 

 

 

 

でもその考えは甘かったんです。

 

 

 

 

 


2日目の夜も更けるころ、僕はそれまで誰とも出会っていませんでした。

 

もしかしたら。

このまま戦わなくてもいいんじゃいか、そんな淡い期待をも抱いていました。

 

 

 

でも、出会ってしまったんです。

 

僕が最も尊敬していて、でもこの状況では出会いたくなかった人に。

 

 

 

 

タバコの匂いが漂いました。

 

山吹の白い制服にぴったりな銀髪をきっちりとセットして。


その人はいつもと何ら変わりありませんでした。

 

 

 

 

「亜久津先輩…」

 

 

「よう、久しぶりじゃねーの。っつってもまだ2日ぶりか」

 

 

 

亜久津先輩は僕を見るとククッと笑って煙草の煙を吐き出しました。

 

それは、僕が見つけた数少ない亜久津先輩の癖でした。

 

 

 

このとき、正直僕は怖かったです。

 

 

亜久津先輩は、平気で人を殺しそうな気がしたから。

 

 

亜久津先輩は、強い人です。

だからこそ、ゲームに乗りそうな気がしていたから。

 

 

 

 

ただ、僕を恐怖から少しでも遠ざける要素があったとすれば、亜久津先輩の服が少しも汚れていなかったということでした。

 

 

 

 

 

 

「太一、お前ちょっと来い。」

 

 

亜久津先輩にそう呼ばれたときも、僕は怖くてたまりませんでした。

 

この場から立ち去りたい気分でいっぱいでした。

 

 

 

 

このゲームの中で、『信頼』なんて言葉が何の役にも立たないことを僕は見てきたから。

 

友情が脆くも崩れ去るところを身をもって感じたから。

 

 

 

 

『生き残れるのは一人』

 

このゲームの最も残酷なところだと思います。

 

 

 

僕は、裏切られたりしたくなかった。

 

裏切ることもしたくなかった。

 

 

だから、誰とも出会わない事を望んでいたんです。

 

 

 

 

 

僕が戸惑っていると、亜久津先輩はこっちに近寄ってきました。

 

いつもなら、僕が返事をしないのなら「・・・じゃーな。」と去っていくのに、今日の亜久津先輩は少し違いました。

 

 

 

僕は思わず後ずさりました。

 

明らかに亜久津先輩の手が僕の首に向かっていると解ったからです。

 

 

 

僕が逃げて、亜久津先輩が近づく。

 

じりじりと時間が流れました。

 

 

でも、そんな状況が続くのも数秒だけでした。

 

 

僕の後ろに大きな木があって、逃げ場所を防がれてしまったからです。

 

 

亜久津先輩の手が僕の首にかかりました。

首輪ごしに伝わる亜久津先輩の手の感触。

 

 

 

背筋がぞくっとして、「怖い」と思いました。

怖くて目を瞑りました。

 

 

 

このまま亜久津先輩の手に力が入って僕の息の根は止まる・・・・そう思ったときです。

 

 

 

 

ふいに亜久津先輩の手の動きが止まりました。

 

 

 

 

おそるおそる瞑っていた目を開けると、亜久津先輩は目を大きく見開いていました。

 

そして、亜久津先輩は次の瞬間「か・・・・はっ・・・」と声にならない声をあげました。

 

 

 

 

口から煙草がぽろりと落ち、血を噴き出しました。

 

亜久津先輩が噴き出した血が、シャワーのように僕の顔に降りかかりました。

 

 

 

 

 

 

一体、何が起こったのか解りませんでした。

 

 

 

でも、亜久津先輩が倒れたあと、僕は何が起こったのかを理解しました。

 

 

 

 

 

オレンジの髪を夜更けの空に輝かせて、そこには千石先輩が立っていました。

 

 

「やあ、壇クン。」

 

先輩は片手をあげていつものように挨拶したけれど、逆の手には血の滴るナイフが握られていました。

 

 

 

瞬時に理解しました。

 

この人が、亜久津先輩を刺したんだと。

 

 

 

 

倒れた亜久津先輩はピクピクッと数回痙攣して、動かなくなりました。

 

千石先輩はかなり深く刺したんだと思いました。

 

 

 

 

 

 

「危なかったねぇー。もう大丈夫だよ★」

 

 

先輩はいつもの軽い口調で語りかけてきました。

 

この状況から判断すると、先輩は僕を助けに来てくれたのかもしれない。

 

 

でも、僕はいまいち信用しきれていませんでした。

 

 

 

 

千石先輩の制服は、血で汚れていました。

 

それは、亜久津先輩の血かもしれないけれど、もしかして他の人の血も混じっているかもしれない・・・・そう考えて怖かったんです。

 

 

 

 

 

僕のぱっとしない表情を見ると千石先輩は声のトーンを少し落として言いました。

 

 

「確かに、尊敬してた亜久津が死んだのは悲しいよね。でも、君は俺が今ここで亜久津を刺していなかったら間違いなく死んでたよ。」

 

 

「違うんです、僕は・・・・・

「わかってるよ。」

 

 

千石先輩は僕が言おうとしたことを遮ると、僕に向かって優しく微笑みました。

 

 

 

 

「壇クンは俺を信用できてないんだよね。亜久津とあんなことがあったばかりじゃしょうがないよ。」

 

 

 

「ご・・ごめんなさいです!僕が、僕が弱いからいけないです!」

 

 

「そんなことない。俺だって・・・・弱い。」

 

 

 

見ると、千石先輩の肩は震えていました。

 

 

その姿はいつもの千石先輩からは想像できないくらいに小さくて弱かったです。

 

 

 

先輩も僕と一緒で怖かったんだ・・・と思いました。

 

同時に、僕はどうしてこの人を疑ってしまったんだろうと思いました。

 

 

そんな千石先輩に、謝れずにはいられませんでした。

 

 

「千石先輩!疑ってすみませんです!」

 

僕が謝ると千石先輩はうな垂れていた頭を少し持ち上げ驚いたような表情をしました。

 

 

 

 

 

 

「僕は、もう一度信じてみたいです。」

 

 

 

このゲームでも、信じられる相手がいるのなら。

 

僕は信じてみたい、と思いました。

 

 

 

 

 

「・・・・ありがとう。」

 

そしてまた千石先輩は笑いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、千石先輩はふいに問いかけてきました。

 

 

「壇クン・・・このゲームが、怖い?」

 

 

 

千石先輩の声は静寂の闇によく通りました。

 

僕は少し考えると、こういいました。

 

 

 

 

「・・・・正直、すごく怖いです。」

 

 

 

 

僕が答えると、千石先輩はうんうん、と頷くと楽しそうに言いました。

 

 

 

 

 

「よかった。これで、心置きなくキミを殺せる♪」

 

 

 

 

 

 

意味が、わかりませんでした。

 

 

 

 

いや、頭では理解していたです。

 

でも、信じたくありませんでした。

 

 

 

 

どうしてこの人が笑いながらこんなことを言えるのか。

 

 

 

 

 

そんなことが頭でぐるぐる回っていた時、ぐさりと胸に嫌な感触がありました。

 

 

刺された、と思いました。

 

少し遅れて、しびれるような痛みがやってきました。

 

 

 

 

痛い。

 

今まで痛いと感じたことはあるけれどこの痛みに比べれば今までの痛みなんてほんの小さなことでした。

 

傷口は自分の体なのに見るに耐えないほどグロテスクで。

流れ出す血液は僕が思っていたよりずっとどす黒く、未だに勢いよく流れ出していて。

 

 

呼吸をするのが苦しい。


肺に酸素が入るたびに傷口が疼く。

 

 

僕は、生死の狭間にいました。

 

 

 

 

 

もがき続ける僕を見て、千石先輩はまた笑いました。

 

 

「このゲームで人なんて信じちゃいけないよ。キミもそれを解ってたんじゃないの?でも、あんな演技が通じるなんてラッキーv生き残ったら俳優にでもなっちゃおーかなぁ★」

 

 

瞬時に、いろんな疑問が繋がりました。

 

 

 

 

 

あのとき、先輩の制服に着いてた血は他の何人もの人たちの血。

 

そして、あのとき先輩の肩が震えていたのは僕を騙して笑いが止まらなかったから。

 

そして、あの微笑みは、僕を殺せるという狂気めいた喜び。

 

 

 

 

千石先輩はなおも笑い、話し続けました。

 

「亜久津ってばなかなか面白いことするよね。君の首輪を外そうとしてたんだよ?そんなことしたら例え壇クンが逃げれたとしても俺たちは政府に捕まっちゃうっていうのに。」

 

 

朦朧としていた脳だけれど、その言葉だけはしっかりと耳に入ってきました。

 

 

 

 

亜久津先輩が・・・・・・?

 

 

 

僕を、逃がそうとしていた?

 

 

 

 

政府を出し抜こうと。

 

自分が犠牲になってまで・・・

 

 

 

 

痛みと、亜久津先輩の気持ちに涙が出てきました。

 

 

 

 

「よかったね。『キミの尊敬してた先輩』が人殺しじゃなくって♪じゃ、キミはもう少しそこで苦しめばいいよ。」

 

 

千石先輩は去っていきました。

 

来たときと一緒で、オレンジの髪が眩しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

亜久津先輩・・・・思い出しました。

 

 

約束を、覚えていたんですね。

 

 

 

 

 

 

『亜久津先輩!将来の夢はなんですか!?』

『ねぇ』

 

『即答しないでくださいです!』

『うぜー。お前こそねぇのかよ。』

『僕はいっぱいあるです!でもやっぱり、亜久津先輩みたいになりたいです!』

 

 

『・・・ククッ、そーか。ま、お前には無理だろうな。』

『酷いです!亜久津先輩!僕は本気です!』

 

 

『ハッ!そーか。なら、お前の夢を俺の夢にすることにするぜ。』

『えっ、どういうことですか!?』

 

 

 

『応援してやる、ってことだよ。』

 

 

 

 

 

亜久津先輩は、僕の将来を。

 

夢を叶えてくれようとしたんですね。

 

 

 

でも・・・・

 

 

「亜久津先輩・・・・僕は、もうそんな望みいらないです。ただ、もう一度あなたと生きて戻りたかったです・・・・!!!!」

 

 

 

 

血は、とめどなく流れて、僕たち二人の夢は闇とともに消え去りました。

 

僕が最期まで思っていたこと。

 

 

 

 

いつか描いた幸せ予想図、そんな高望みなんてイラナイから。

 

 

日常が、欲しかったんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*後書き*

ノリノリで書いてしまったのですが・・・。。

駄目でしょうか?(笑)

亜久津と壇の関係は、すごくほほえましいですね。

一度バトテニで山吹を書いてみたいと思っていたのでいい機会だと思いかきました。

読んでくださってありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

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