07.殺すことがしいのか、殺されることがしいのか

 

 

 

 

いろんな人に出会った。

 

その度、俺は救われた。

 

 

 

 

侑士。宍戸。跡部。

 

いいやつばかり。

 

 

 

 

でも、皆死んだ。

 

それぞれ、いろんな言葉を言い残して死んだ。

 

 

 

 

侑士。

『どんなことがあっても、生き延びや。例え、自分の手を血に染めることになってもや。』

 

 

宍戸。

『人の命奪っての幸せなんてねぇよ。殺すなんて最低だ。それだけはすんなよ。』

 

 

跡部。

『いつでも、自分が正しいと思ったことを貫け、いいな。

 

 

 

3人からそれぞれ、正反対の言葉をもらったけれど。

 

俺はそのときどれが正しいかなんて解らなかった。

 

 

 

 

 

 

3人にそれぞれ守ってもらったおかげか、俺はさした危険にさらされることもなく、ゲームを生き延びていった。

 

 

6時間毎に流れる放送で沢山の名前が流れた。

 

 

クラスメイトの名前、目にかけていた準レギュラーの名前、名前と顔が一致しないやつの名前・・・

それだけ、沢山の血が流れたということなのだろう。

 

 

 

 

どんどん生存者が減っていく・・・最終的に1人に減らすために。

 

 

 

生存者が減っていくにつれ、俺の恐怖は増大した。

 

生き延びれば生き延びるほどに、死ぬのが怖くなる。

 

 

 

 

何度も夢であればと願い目を閉じた。

 

 

けれどそれは眠りとも呼べない浅い休息を呼んだだけだった。

 

 

 

 

 

 

もう何度目の放送になるのだろうか・・・・

 

島中に響きわたる明るい交響曲と共に教官のだらけきった放送。

 

 

 

 

俺の目はうつろで、足は棒きれになったかのようにふらふらだ。

 

自慢の髪も、今では艶を失いやりたい放題に絡まりあっている。

 

 

 

 

ここ数日、ろくに食べず眠らなかった。

 

 

絶えず銃声が聞こえ悲鳴が聞こえる島で、食べたり眠ったりなんて満足にできるはずもない。

 

いや、まだ食べ物なら我慢ができる。

だが、問題は水だ。

 

 

 

 

この島には海の水くらいしか水分になりそうなものはない。

 

 

俺たちに配布されるのはたった2リットルの水分。

 

政府に言わせれば『早く食べたり安心して眠りたければさっさと殺せ』ということなのだろう。

 

 

 

 

一度は我慢して海の水を飲もうとした。

 

けれど、海の水は赤く染まっていて、その中に肉片のようなものが浮いているのが見えたから水分の補給はあきらめた。

 

 

 

 

もう俺は衰弱しきっていた。

 

 

このままではきっと誰かに殺される前に死んでしまうだろう。

 

 

 

 

・・・・でも、それでもいいかなと思った。

 

 

 

宍戸が言った通り、誰かを殺して手に入れるような幸せなんて・・・。

 

 

 

どうせ死ぬなら、殺されるより勝手に死んだほうがいい。

 

 

 

 

 

そう思って俺はその場で寝転んだ。

 

 

まぶたはもう半分閉じかけだ。

 

 

 

 

 

あとはこの眠りが死に繋がるのを待つだけ・・・そう思った瞬間、ふいに物凄い殺気を感じた。

 

 

 

 

 

そして、俺の斜め前で何かが銀色に光ったと同時に俺は瞬時に右に転がった。

 

同時に、少し離れたところで木の葉が重なり合う音が聞こえた。

 

 

 

 

 

さっきまで俺が寝転がっていた場所を見ると、銀色の矢が地面に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

俺の体にそれを見た瞬間震えが走った。

 

 

 

 

もし、これが自分だったら・・・・・。

 

 

 

 

今までに残酷な場面やそれこそ人が殺される瞬間を何回か目撃したけれどこれほどまでに恐怖は感じなかった。

 

所詮安全な場所で見ていただけであったから、自分の身には危険は及ばないと思っていたから。

 

 

 

 

でも。

 

 

 

実際に隣りの矢を見るとまだ震えが止まらない。

 

 

 

死ぬことがこんなにも怖いなんて。

 

 

 

 

 

唇を噛みしめ、爪が食い込むくらい手を握り締める。

 

 

 

頭の中で流れる映像は、血まみれの自分。

 

矢が胸を貫き、苦しそうにのた打ち回る自分。

 

 

 

 

そんな頭の中の自分が、あまりにもリアルで痛々しくて俺は知らないうちに胸を強く抑えていた。

 

息は乱れて、いやな汗が頬を伝う。

 

 

 

 

 

 

そうしたとき、不意に頭に侑士の言葉が浮かんだ。

 

 

『どんなことがあっても、生き延びや。例え、自分の手を血に染めることになってもや。』

 

 

 

 

 

俺は自分の手を見つめた。

 

 

土色に汚れた、白い手。

 

 

 

 

 

この手で、人を・・・・殺す?

 

 

 

 

今の俺には殺すことはごく自然なことのように思われた。

 

 

 

 

手を血で真っ赤に染めて笑う俺。

 

 

 

優勝した俺。

 

生き続ける俺。

 

 

 

 

どんな形であっても生きていたいと思った。

 

たとえ、殺戮者という最低な人物まで堕ちたとしても。

 

 

 

 

立ち上がって歩き出すと足取りはさっきまでの重い気持ちが嘘のように軽やかだ。

 

 

 

もし誰かが出てきても殺せばいい。

 

そんな心構え一つで人間変わるものだ。

 

 

 

 

今にも口笛をふきそうな足取りで俺が歩いていると、俺の横から何かが這いつくばってきた。

 

 

銀色の髪、長袖のレギュラージャージ、そしてその首から掛かるのはシルバークロスのネックレス。

 

キリスト信者でもないのにいつもネックレスをしていたアイツ。

 

 

 

 

「・・長太郎・・・・!」

 

 

俺がとてつもなく驚いたのは人物が長太郎だったからではない。

 

 

 

長太郎の右足がごっそりもぎ取られていたからだ。

 

切り口は表現できないほどグロテスクで恐ろしく、長太郎の這った跡には川のように血の跡がついていた。

 

 

 

 

「向・・・日先輩?」

 

長太郎は俺に向かって何故か微笑んだ。

 

 

 

「どうしたんだ、長太郎。」

 

俺は負傷した長太郎に少し同情はしたが、先ほどの決意を揺らがせるつもりはなかった。

 

 

 

情けはいらない、殺すんだ・・・・

 

 

俺は銃を握り締めた右手に力を込めた。

 

 

 

 

「先輩。俺、誰かに攻撃されて・・・気がついたら右足がなくなってて、これだけ血が流れてるのに全然死ねなくて・・・・」

 

 

長太郎はすがるように俺を見た。

 

俺はそんな長太郎をただ見下ろすだけだった。

 

 

 

 

「向日先輩。俺を殺してください。」

 

「?!」

 

 

俺は最初から長太郎を殺すつもりだったけど、この言葉には驚いた。

 

 

 

俺は生きたい、と願っているのに長太郎は死にたいと願っている・・・。

 

 

 

 

「どうせ優勝したって皆はいないし、この足じゃテニスもできないから・・・俺、このまま死ぬのを待つよりかは尊敬してた先輩に殺されたいです。」

 

鳳はそう言って少し自嘲気味に笑った。

 

 

何故コイツは殺してくれ、だなんて頼めるのだろう。

 

 

 

コイツだって、生き延びたくて今までゲームを生きてきたんじゃないのか?

 

どんな手段を使っても生き残りたかった、そうじゃないのか?

 

 

コイツは、死ぬのが怖くないのか?

 

 

 

 

そんな疑問が俺の頭に浮かぶ。

 

 

俺はその疑問を問いかけるかのように一層銃を強く握り締めた。

 

 

握り締めた銃は、俺に答えなんてくれなかった。

 

 

 

返ってきたのは、ただ冷たい感触。

 

 

 

 

長太郎を見下ろすと、目を潤ませて俺が引き金を引くのを今か今かと待っている。

 

 

 

 

最早、俺に選択肢などなかった。

 

 

 

 

 

右手をゆっくり挙げて指に力を込める。

 

 

長太郎は、嬉しそうに笑う。

 

 

 

ほぼ同時に、鼓膜が破れそうな銃声と共に飛び出した鉄の塊。

 

 

 

塊は長太郎の眉間を貫く・・・ゆっくり・・・ゆっくりと。

 

同じようにゆっくりと長太郎は倒れた。

 

 

 

 

 

あとに残ったのは、顔の原型を留めず右足のない人の残骸と、血のシャワーを浴びた俺。

 

俺はただ、生暖かい血の感触を感じながら呆然としていた。

 

 

 

 

頭の中ではまだあの瞬間が流れている。

 

俺の手から放たれた黒い塊が、長太郎の皮を突き抜け、肉を裂き、命を絶った瞬間。

 

 

 

体はカタカタと震えていた。

 

 

 

 

何故、こんなに怖いんだろう。

 

 

 

あのとき、もう覚悟を決めたはずなのに。

 

 

 

 

どうして、こんなにも涙が流れる?

 

 

どうしてこんなにも今になって悔やむ?

 

 

俺がやったことは、正しくなかったのか?

 

 

 

 

 

跡部の言葉を思い出す。

『いつでも、自分が正しいと思ったことを貫け、いいな。

 

 

 

 

「無理だよ・・跡部、宍戸、侑士。」

 

 

 

泣き崩れる俺の傍には誰も居なくて。

 

 

 

 

傍にあったのはただ一つ。

 

冷たく光る銃だった。

 

 

 

 

 

「殺すことが正しいのか、殺されることが正しいのか、俺自身が正しいのかなんてそんなこと、解んないよ。」

 

 

 

 

俺が選んだ最期の選択。

 

 

 

それは死だった。

 

 

 

 

*後書き*

岳人を前面に出した物語を書きたい、と思い書きました。

岳人総受けな感じになってはいますが、甘い要素は入れたくなかったので入れませんでした。

最期岳人を殺すつもりはなかったのですが、流れ的に岳人は自殺してしまうのではないか、と思いました。

お読みいただき、ありがとうございました。

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送