06.モノクロの世界にただ一つ色褪せることのない

 

 

 

 

 

「・・・・し、ゆーし!」

 

 

 

 

目を覚ますと、とたんに緑。

 

緑の間からはさんさんと太陽の光が降り注いでいて、目を開けたばかりの俺にとっては眩しい光景やった。

 

 

その光のせいか、左目は半分も開かへんし、右目は完全に閉じてる。

左目がわずかに開くのも、前髪で光が弱くなっているからやろう。

 

 

 

だるい頭を持ち上げ俺はゆっくり上半身を起こした。

 

 

 

ごちっ

 

 

 

瞬間、ものすごい音がした。

 

その音と、おでこへの強い衝撃で俺の意識はやっとはっきりしだした。

 

 

 

 

「ってーーー・・・・・」

 

 

おでこを押さえながら俺の前から起き上がったのは、赤い・・・いや、ピンク・・・・の髪の少年。

 

 

 

「いてーよゆーし!」

 

少年は身軽に飛び上がると俺の周りでぴょんぴょん跳ねた。

 

 

 

 

『ゆーし』?

 

ああ、『侑士』。

俺の名前や。

 

 

せやけど、何でこの少年は俺の名前知ってるんや?

 

その前に、ここはどこや?

 

 

周りから見ると森みたいやけど・・なんで俺はこんなとこで寝てたんや?

 

 

 

 

「・・・ジブン、誰や・・・?」

 

 

少年は飛び回るのをやめると、俺の前に回り込んだ。

 

 

そして少年は俺の額に手をあてると逆の手で自分の額に手をあてた。

 

 

 

 

 

「ごめん侑士!痛かったよな!?悪ぃ、俺がちゃんと場所考えなかったから!頭、治ったか?」

 

瞬間、少年は心底申し訳なさそうな顔をしてそれだけの台詞を一気にまくしたてた。

 

 

どうやらこの少年は俺がさっきの頭を打った衝撃でおかしくなっていると思い込んでるみたいやった。

 

 

 

 

「や、アレはジブンも痛かったやろ?お互い様や。せやけど、俺はほんまにジブンのこと知らんのや。」

 

 

そのときの少年の驚いた顔といったら。

 

 

それからしばらくうんうん唸りながら何かを考えて、また俺の周りを飛び回ったりしとったけど、何を思いついたかまた目の前に着地した。

 

 

 

少年の髪の毛と同じ色の綺麗な瞳が俺の目を捉える。

 

 

「ほんっとにほんっとに覚えてねーの?」

 

 

「・・なにがなんなんかさっぱり。」

 

 

 

「傷は痛くねーの?」

 

「・・・・あ。」

 

 

そういえば体のあちこちが痛い。

 

 

試しに手足を動かそうとすると、まるでセメントで固められたかのようにびくともしなかった。

 

見ると、手足には包帯がぐるぐる巻かれ、包帯には血が滲み出していた。

 

 

 

「事故でもしたんか・・・?俺・・・」

 

「・・・・まあ、いつか記憶が戻るって!気にすんな!それより・・・」

 

 

 

 

少年の説明によるとどうやら、俺は記憶喪失になってしもたらしい。

 

覚えてるのは名前だけ。

 

 

 

あの少年は、岳人って名前らしい。

 

 

俺とは中学からの知り合いでテニス部で一緒にダブルス組んどったらしい。

 

何でこんな場所にいて俺が傷だらけなんかは言えへんけど、岳人にいわせれば「大した事じゃない、気にすんなっ」程度の出来事やって言ってた。

 

 

 

しばらくして気づいた、俺と岳人の首に装着された銀の首輪についても岳人は同じような反応を示した。

 

俺はそのとき、岳人のジャージの端に血の滲んだような跡があるのを見つけた。

 

 

 

 

それから、俺が此処で起こってる出来事に気づくまでそう時間はかからへんかった。

 

 

 

俺が岳人と話しこんでいる最中に、何度も銃声が聞こえた。

 

 

岳人はそのたび「この辺自衛隊の訓練地らしーんだよな」と笑って誤魔化した。

 

せやけど、いくら自衛隊でもこんなに頻繁に銃声発してたら違法や。

 

 

 

 

それに、岳人は物音がするたびに俺を黙らせ、注意深くあたりを見渡した。

 

明らかに挙動不審すぎる。

 

 

 

 

俺が岳人にどう問い詰めようか考えてたときのこと、決定的な言葉が俺の耳に聞こえた。

 

 

『さて、放送の時間だ。新たな死亡者を発表する。2年、・・・・・・』

 

 

 

 

「死亡者!?どういうことや岳人!」

 

死亡者やなんて想像を絶する単語が聞こえたもんやから俺は興奮して岳人の肩を揺さぶった。

 

揺さぶるたびに岳人の細い首がかくかくと揺れる。

 

 

 

 

「・・・話せない。」

 

岳人は、小さく、でもはっきりとした口調で答えた。

 

 

「なんでや!答えてや!」

 

俺は更に手の力を強めた・・・・が、岳人の苦しそうな顔を見て力を緩めた。

 

 

 

ごめん、と力なく謝ると岳人は首を振った。

 

 

 

「いつか・・・侑士が思い出せるときが来るから。そのときまで。お願い。」

 

「せやけど、俺かて知りたい。自分に何が起こったんか。」

 

 

 

「・・・ごめん。」

 

そして、岳人は俺から顔を背けた。

 

 

 

 

それから、しばらくの沈黙が訪れた。

 

 

 

 

しばらくのうちは、俺は自分の過去に何があったかについて考えていた。

 

 

 

でも、ふと気づいた。

 

岳人のする息がひゅーひゅー、という力のない音に変わっていることに。

 

 

 

「岳人!」

 

 

隣りの岳人を見ると、苦しそうにうめいている。

 

 

 

よく見ると、腹のあたりに小さく赤い染みができて、それがどんどん広がっていく。

 

俺は一瞬でそれを血だと理解した。

 

 

 

手当て・・・か?

 

せやけど、包帯なんかどこにあるんや!

 

 

 

 

そのとき、思い出した。

 

岳人がいつも隣に置いていたバッグの存在を。

 

 

 

 

・・・あの中にやったら!

 

 

 

 

岳人に申し訳ないと思いながらも岳人のバッグを勝手に開ける。

 

あけた瞬間、いろんなものがごちゃまぜに入っているのが見えた。

 

 

地図、水の入ったペットボトル、パン・・・・。

 

包帯も奥の方からちらりと覗いていた。

 

 

 

包帯を手にしようとバッグの中を掻き分けたとき、俺の目にとんでもないものが飛び込んできた。

 

 

 

黒く光る、刑事ドラマでしか見たことのないような代物。

 

そう、それはまさしく銃だった。

 

 

 

何で岳人がこんなもん・・・・

 

 

 

早く岳人の元へ行け、手当てをしろ、と脳は命じているのに体はまったく動きやしない。

 

俺の右手は勝手にバッグの中をまさぐる。

 

 

 

 

そして、ついに俺は銃を手に取った。

 

 

 

 

瞬間、俺の頭にものすごい衝撃が走った。

 

 

 

 

 

『岳人、そいつに近づくな!死ぬぞ!』

 

 

 

『忍足、てめぇ何しやがった!?!!!』

 

 

 

 

『ゲームに乗るなんて・・・人のすることじゃありません。』

 

 

 

やめろ

 

 

 

 

『仲間じゃねぇのかよっ・・・・・!』

 

 

 

 

頭が割れそうや

 

 

 

 

『死ねぇええーーーーーーー!!!』

 

 

 

記憶が逆流してくる

 

 

 

『それでも俺、侑士のこと信じてるから。』

 

 

 

 

「うわぁぁあああーーーーー!!!!」

 

 

 

 

そうや、俺はあのとき。

 

 

 

 

 

怖かったんや。

 

 

岳人の笑顔が、髪が、全てがまぶしすぎて。

 

感情のない、色のない俺には鮮やかな岳人は似合わないと思った。

 

 

 

せやけど。

 

 

岳人は俺を信じて。

見捨てんと。

 

 

一回殺されかけたのに、助けて、記憶喪失の俺をまた助けて。

 

 

 

 

 

岳人は・・・・・そう、

 

 

 

モノクロの世界にただ一つ色褪せることのない光やった。

 

 

 

 

*後書き*

不完全燃焼な物語です。

もっと詳しく忍足に起こった出来事を書きたかったのですが、そうすると前後篇になってしまいそうだったので省略しました。

一応設定としてはこういうことです。

・忍足がゲームに乗った

・岳人は宍戸、鳳と行動していた

・忍足と宍戸たちが鉢合わせ

・宍戸に止められるが、岳人は忍足を信じて忍足のところへ行った

・忍足が岳人を撃った

・宍戸、鳳が逆上

・宍戸が忍足を撃った

・岳人は一命を取りとめ自力で回復、倒れていた忍足を助けた(つまりこの物語のはじめ)

 

ほんとは最期に宍戸たちと遭遇させ、一波乱起こそうと考えていたのに・・・ファイルが重くなるのは嫌ですから。(笑)

お読みいただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

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