教官が言ったことは理解していたけれど、実際にこんなくだらないゲームに乗るような人はいないと思っていた。

 

こんな政府の言いなりになるような腐った殺人ゲーム。

 

 

 


クラスのやつらならともかく、あの先輩達に。 

 

 

 

 

 

 

01.始まりを告げる風は妙に生暖かかった

 

 

 

 


分校を出ると、左に森、右に海というこんな状況じゃなきゃ絶好の景色が広がっていた。

 

 

辺りには潮くさい香りが漂っている。

 

海の上に小さく見える影は、教官が言っていた政府の船だろう。 

 

 

 

一体どこの島なのだろうか・・・。

 

 

 

地形といい、何といい、今まで見たこともない。

 

日本にもこんな島があったのかと日本もまだまだ広いということを思い知らされる。

 

 

 

まだ波の音しか立たないこの島で、じきに殺し合いが始まると言われても受け入れられるはずがなかった。

 

少なくとも俺には、この光景からはそんなこと想像できなかった。

 

 

 

 

 

 

ディバックの中には教官が言った通りのものが入っていた。

 

 

ただ、食料と水は一人が3日間生き延びるには少し足りないような気がした。

 

死人に食料は要らない、ってことか・・・。

 

 

 

そして、教官が当たり外れがあると言っていた武器。

 

 

俺の武器は果物ナイフ。

 

家でも見慣れたその形は手に取るとしっくりと馴染んだ。


小回りが効いて使えないこともないけれど、所詮は『果物』を切るための道具。

 

 

 

「ハズレ・・・・・・かな。」

 

 

 

 

何ともなしに呟いた声は、潮風に飲み込まれて消えた。

 

まあ、こんなもので人の肉を切るなんて考えたこともなかったのだけれど。

 

 

俺が果物ナイフをじっと見つめていると、ふっ・・・とどこかで笑い声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

「・・・成る程、越前の武器はナイフか。」

 

 

 

 

背後から聞こえた低音のえらく響く声に、俺が振り向くとそこには見慣れた姿。

 

 

長身に、表情の見えない眼鏡といえばこの人しかいない。

 

 

 

 

「乾、先輩。」

 

 

 

先輩は口元を笑みのカタチにして立っていた。

でもおそらく、今先輩の目は笑っていないだろう。

 

 

先輩の手に収まっていたのはいつものデータノートではなく、大きな大きな、マシンガンだったから。

 

 

 

 

 

 


ああ、そうか。

 

 

 

俺は瞬時に理解した。

 

今何が起こっていて、これから乾先輩の起こすであろう行動が。

 

 

 

 

 

 


「・・・・・・俺もまだまだだね。」

 

 

 

 

 

口元がつり上がる。

 

 

口の形が戻らない。

 

目は笑えない。

 

 

 

 

今の俺は乾先輩と同じ表情になってる。

 

 

俺・・・笑ってる?

 

 

 

 

乾先輩は俺の表情を見て少し後ずさった。

 


俺の正常な意識は、そこで崩れ去った。

 

 

 

 

 

気づけば猛スピードで――こんな瞬発力俺にあったのだろうか――走り出していた。

 

 

でも、その足が向かったのは隠れられる場所のある森の方向ではなく。

 

 

 

乾先輩の方向。

 

 

 

 


俺の体は俺の意思が追いつく前に、ナイフで乾先輩の胸を一突きし、心臓をえぐっていた。

 

 

 

 

俺の意識が追いついたのは数秒後。

 

乾先輩の体が後ろへ傾いている最中だった。

 

 

 

 

引き抜いたナイフに残る肉の感触。

 

滴る血。

 

 

それら全てが俺を興奮させる材料でしかなかった。

 

 

 

 


血しぶきをあげて倒れていく先輩を俺は見つめていた。

 

 


口元はまだ笑っている。

 

 

 

 

 

 

 


なんだよ、俺。

 

 

 

しっかり乗ってんじゃん。

 


人殺しちゃったし。

 

 

 

 

 

 

そんな自分が酷く滑稽で可笑しくて笑いが止まらなかった。 

 

 

夜明けの島に木霊す笑い声は、さぞ不自然なものだったに違いない。

 

 

 

 

 

 

ふと海を見ると丁度朝日が昇るところだった。

 

 

朝日はゆっくりと、着実に昇っていく。

 

長い長い一日が始まる。

 

 

また、潮風が俺の頬を触った。

 

 

 

 

 

 


ゲームの始まりを告げる風は、妙に生暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

*後書き*

最初のお題はリョーマで書こうと決めていました。

始まりを告げる風=潮風というイメージが拭いきれなかったので海辺のシーンになりました。

なぜ乾を登場させたのかは不明です(笑)

人がゲームに乗る瞬間なんて、案外単純なものなのではないかなと思い書きました。

簡単に人って変われてしまうものなんですよね。

ではではここまでお読みいただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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